それぞれの道


 翌日から、女官たちはヴィーナス・セリムに夢中、中には不謹慎にも、恋文を書く女官も出た。


 そして本番、奉納舞いを踊り終わり、ヴィーナス・セリムは小さく呟いた……

「永らく留守にした我が住みかよ、汝の主を迎えよ」

 すると黒の巫女にだけ反応するという、門灯が強烈に輝きだした。


 もう誰も言葉も無い……静寂がその場を支配している。

 アグネスもエレンもオルガも……事がどれほど重大かは知っている……


 呻くようにオルガが言った。

「主が……いよいよ主が……私たちのお仕えする主……黒の巫女様が……ご光臨された……」


 それからは大変だったが、女官たちは生き生きしだした。

 仕える相手が目の前に見える……しかも、あれほど憧れたヴィーナス・セリムが仕える相手……


 ある日、アグネスは新任の大賢者に呼び出された。

 新任の大賢者とは伝説の人物だった……もう何百年前の人物……類まれなる魔力を持つ方……

 ジジ様が侍女の様に控えている……


 正直、アグネスはとてもお年寄りと思っていたが……

 なんで、こんなに綺麗なの……


「私がどうしたの?」

「いえ……」


 大賢者はダフネと名乗られたが、そのダフネが、

「今度、『奉仕の魔女団』と呼ぶ魔法士の組織を作ります、目的はヴィーナス様の親衛です」


 ジジが、

「貴女はその能力がある、私はそれをダフネ様に進言した」


 ?


「エレンの時だ、あの時、貴女の力がなかったら、確実にエレンは死んでいた」


 ?


 何のことか分からないアグネス。


 ダフネが笑い出した。

「ジジ、アグネスも、私はこう見えても永き時を生きてきたのよ……一目見ればわかりますよ」

 そしてアグネスに向かっていった。


「アグネス、今日より『奉仕の魔女団』に配属します」

「明日より私が直々に『奉仕の魔女団』を鍛えます」


 えぇ……そんな……でも……黒の巫女様の親衛団なのよね……


 その頃、エレンは同じように、『麗しき女騎士団』のビクトリア団長に呼ばれていた。

 オルガはナイチンゲール看護婦人会の、アンリエッタ総長に……


 その夜、三人は互いの事を報告しあった。


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