舞空術


 奉仕の魔女団……

 黒の巫女ヴィーナスの親衛魔法団として設立された。

 不埒な輩からヴィーナスを護衛すると共に、戦場においてはその身の回りに仕える。

 つまりは戦場侍女と呼べる存在である。


 また黒の巫女や、大賢者の公式書簡なども配達する、メッセンジャーといわれる仕事もある。

 奉仕の魔女団はその仕事ゆえに、シビル神殿の『奥』から出ることが出来る。


 ただ女官としての決まりがある……

 いにしえからの決まりで、何らかの理由で女官が『奥』から出る場合、不名誉な目に合わないために、エッチが出来ないような装備を、装着しなければならないのだが……

 旅行用という事で、一応トイレは可能とはなっている。


 アグネスは才能があった、しかしそれは努力と呼ばれる部類のものである。

 しかし誰よりも努力した結果、半年も経つと、奉仕の魔女団でも有数の魔女に成長した。

 華奢で小柄、目が大きく、金髪をショートカッにしているアグネス……綺麗な娘に育っていた。


 ある時アグネスは、ダフネから秘密書簡を配達するように命じられた。

 宛先はホラズムの王都ジャイアールの住人、ミスターピピン。

 密使と言う訳だ。


「必ず届けよ」

「必ずお届けいたします」


「一人で大丈夫か?」

「奉仕の魔女団に不可能はありません」


 ダフネは思った。

 ……アグネスも強くなったな……自信があふれている……

 ジャイアールまで、アグネスなら四日かな……


 アグネスの場合、舞空術が使える、これはかなり高度な魔法である。

 風の魔法を利用するもので、足元に風を集め、体を凄い勢いで押し上げ、飛空していくのである。


 ……私が教えたのだから、大丈夫でしょう……


 『奥』の中庭に出ると、エレンとオルガが待っていた。

「ちゃんと装着している?」とオルガが聞いた。


「しているわよ、ほら、鍵はダフネ様に預けたわ」

 服の裾をたくし上げるアグネスに、

「そんなはしたない事をしないの!」

 オルガにたしなめられたアグネス。


「気をつけてね」と、エレンが心配そうに言った。

「行ってくるわ」


 アグネスが舞空術を発動すると、足元が光始め、そこに風が吹き込み始める。

 見る見る周りを風が渦巻き、アグネスが浮遊を始め、そのまま天空に飛んで行った。


「いつも思うが舞空術ってすごいな……」

 と、エレンが感慨深げに言った。

「無事を祈るわ……」

 オルガが呟いた。


 アグネスの舞空術では、ジャイアールまでは一気にいけない。

「ダフネ様なら一気にいけるのに……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る