崩落


「ねぇ、オルガって、印象が違うわね……」

 と、エレンが言えば、

「オルガさん、疲れているのではないの?」

 と、アグネスも言う。


「とにかく私は、目の前の穴掘りを終わらせなくてはね」

「私は掃除……たしか偉い人の部屋を五つも……はぁ……」


 アグネスはせっせと、掃き掃除、拭き掃除、お片付け……

 それにしても広い部屋ばかり……中には……女を捨てたの?と思える汚部屋などもある。


 やれやれ……

 でも綺麗なお部屋もあったようで、特に最後の次席賢者の部屋は、整理整頓が行き届いていた。

 アグネスが机を拭いていると、次席賢者であるジジが入ってきた。


「ありがとう」と言って、机の上に書類を出すと、仕事を始めた。


 アグネスは掃除を終わらせ、黙って出ていこうとすると、窓の外からエレンが見えた。

 案外に根がまじめなエレンは、せっせと穴を掘っている。


 エレンらしいわね……それにしても深く掘ったわね……背より深いわよ、あの穴……

 そんなことをアグネスは思った。


 その時、穴の側面が崩落した。

「エレン!」


 アグネスは走っていった……

 突然のアグネスのあわてぶりに、同じように窓から外を見て、事態を察したジジは、すぐに人を呼ぶとともに、自身も走ってきた。

 まずいことにエレンは生き埋め状態、足だけが見える。


 アグネスは必死になった。

「エレン!今助けるから!」


 エレンにのしかかっている土を、素手で掻き分けてみるが、アグネスの小さい手では埒が明かない……早くしないと……


 ジジも必死で手伝っているが、女二人の素手ぐらいでは……

 時間がない……タイムリミットがやってくる……


 ジジは内心、駄目かと思い始めたとき、アグネスの手が少し光ったように見えた。

 穴の空気がなんとなくざわめいてきた。


 これは……


 アグネスの手の周りの土が異常に多く退けられ始めた。

 ザク・ザク・バサ・ドサ……


 アグネスの手には血が滲み始めた……

 その時、エレンの頭が見え出した……

 ジジとアグネスは、とにかくエレンの顔を横にして、息を吸えるようにはした、生きていた……



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