オルガ


 オルガである。

 シビルの若い女官の中でも、オルガは抜きん出て優秀である。


 沈着冷静、リーダーの素質があり、面倒見の良さとあいまって、皆がいつかはシビルの女官長になると思っている。


 なんでオルガが声をかけてくれるのかしら?誰も私たちなんて声もかけてくれないのに……


 アグネスは多少、不審な面持ちであったが、「どうぞ」といった。


「失礼します」

 と、優雅にオルガは、アグネスたちのテーブルに座った。


 アグネスって、目が大きいわね……

 エレンもよく見れば美しいわね……


 オルガは一瞬で値踏みした、そして聞いた。

「なんで女官になったの?」

「……」


「不躾だったわね、ごめんなさい」

「ここしか……なかったから……居場所が……ここしかなかったので……」


 アグネスは二束三文で親に売られたのである。

 そしてさらに転売された……売春宿であった……


 当時、十二歳のアグネスは逃げ出した。

 そして自らを教団に売り、その代金で、売春宿の売買証明書を破棄したのである。


 一応、手続きは、神聖教の事務方がしてくれた。

 たしかに神聖教の女官になった以上、その権威に売春宿があがらえるわけもなかった。


 以来、三年、アグネスは働いているわけだ。


 賢いわね……良い判断だけど……親元に戻らないのは……

 私にはできないかもしれない……

 オルガはただ感心するばかり。


 オルガはアルジャの生まれで、家が貧しく、売りに出されようとしたとき、何とか教団の女官になれれば、娘も少しはましな生活が望めると、両親がだめもと覚悟で、ここまでのお金を必死で工面して、送ってきた娘である。


 少なくとも、両親の愛情はありがたいと思っていたオルガ、親元に帰れない、アグネスの辛い思いまでは、理解はできない……

 

「オルガさん、私、この後、掃除がありますので」

 昼までアグネスは、この食堂の皿洗いと掃除が待っている。

「私は穴掘りの続きなので……」とエレンも言った。


「昼食もご一緒してくれませんか?」

「……」

「お願い!」

「……構いませんが……」


 なぜ?アグネスとエレンは理解出来なかった。


 オルガはずーっと二人を見ていた、そして確信していた。

 他の人はどう思おうと、この二人は何かを持っている……

 何より正直……お友達を持つならこの二人……


 沈着冷静に見えるオルガだが、本来はそそっかしい女、しかも熱い女なのである。

 ただ聡明なところもあり、周りがよく見えるのがオルガの良い所、自分を抑えることが出来るのである。


 しかし疲れる……オルガとしては飾らなく喋れる、友達が欲しかったのである。


 少し……強引かしら……でも……仲良くしたいの……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る