第三章 アグネスの物語 女官

取り柄のない女


 アグネスは神殿都市シビルの下っ端女官の一人、毎日のお仕事はかなりの肉体労働。


 体も小さく、本当は辞めたいのだが、エラムの女官というのは神に捧げられている。

 辞めるというのは死という意味……生きるためには、下仕事をするしかないのだが……そんな女官の世界にも、変化が起こり始めていた。


     * * * * *


 その娘はお世辞にも綺麗には見えない。

 いや本来は非常な美人なのだろうが、少々くたびれているようだ。


 痩せっぽちで非力で、まして女の魅力というものも、今は感じられない。

 といっても、神殿都市シビルの、黒の巫女を祀る中央神殿の女官である以上、そこらの女たちよりは綺麗な娘なのだ。

 が、なんせ周りは選りすぐりの美女ばかり、つまりとても高いレベルでの話ではある。


 朝日はようよう昇り始め、東雲(しののめ)を人々は色々な想いで迎えるのだが、アグネスにとっては、早く終わって欲しい一日の始まりなのである。

 洗濯係の下っ端女官であるアグネスの一日は嫌々始まるのだ。


「さっさとしなさい!ほんと、ぐずなのだから!」

 先輩の女官に怒鳴られて、泣きそうな顔をしながらも、何とか洗濯を終わったようだ。

 この後、まだ水分を含んだ洗濯物を、干しにいかなければならないのだが、これがとても重く非力なアグネスとしては辛いのである。


 十五になったばかりの娘は、青白い顔で、今日も洗濯などをする毎日だった。


 やっと朝の仕事が終わる頃には、ヘトヘトになったが何とか朝食に間に合った。

 食堂のドアは、次席賢者であるジジが入ってきたら、閉められるのである。

 遅れると朝食が食べられない……


「アグネス!間に合ったようね」

 アグネスとほぼ同じ時期に、女官になったエレンが声を掛けてくれた。


「何とかご飯を食べられそうよ」


 エレンは背も高く、美しい女ではあるが、少々気が強く、よく他の女官といさかいを起こしている。

 そのたびにアグネスが、エレンの代わりに謝りに行くのである。


 そもそもアグネスは誰からも注目されないというか、眼中にないというのか、見下されているようなところがある。

 そのアグネスが、おずおずとエレンの代わりに謝りに来ると、なぜか怒りが消える、脱力感にとらわれるようである。


「もういいわ!貴女に謝られると、怒る気にもならないわ……アグネス、エレンの使い走りは辞めたら!」

 などといわれるアグネスなのである。


「ごめんね、洗濯物運び、手伝えなくて……」

 と、エレンが申し訳なさそうにいった。

「いいのよ、エレン、忙しそうだったから……」


 エレンは、体力勝負の仕事を押し付けられるのが日課、今日も朝から女官というのに、スコップを持ってなにやら穴など掘っていた。

 なんでもゴミを焼却するための穴が焼却灰でいっぱいになり、新しいゴミ焼場のための穴らしい。


「とにかく食べない、お腹が背中とくっつきそうなの」

 お腹がペコペコの二人は、すごい勢いで食べるが、大体において中央神殿女官の食事は質素、しかもかなり少ない。


「隣に座ってもいい?」

 少々下品に朝食を食べている二人に、別の女官が声をかけてきた。


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