真面目にずるく、そして一途に


 テオドラは突然、ビアンカを抱きしめて……

「ビアンカ、女は皆そうなのよ、家庭婦人課程ってのはそういう事を学ぶところよ!」

「ビアンカは最低じゃないわよ、でないとここの女は最低を学んでいるのよ……」


「……」


「別に悪いことではないわ、女ですもの、手練手管で殿方を誘惑するのが悪いわけはないわ、女の特権でしょう!」

「ビアンカが反省しなければならないのは、一つだけ!もっとずるくなることよ!」


「ずるく?」

「そう、相手を傷つけることなく、ずるく立ちまわることなのよ!」


「私たちは『死の女王』みたいにはなれないわ、あんなに心が強くないのよ」

「誰に何をいわれ、どんな結果にも平然とは出来ないの!」

「でも上手には生きられるのよ!ビアンカは真面目過ぎるのよ!」


「真面目?」

「真面目よ、人の話を真摯に聞くことが真面目な証拠、真面目をずるく使ったらどうなの?」


 真面目をずるくね……


「ひょっとしてビアンカ、好きな人がいるの?そんなに悩むなんて、恋する女のすることよ」

 好きな人……

 ヴィーナスの顔が浮かび上がった。


 そして突然、ビアンカなりに悟った……

 私はヴィーナス様がすべて……真面目に愛するの……そして少し利用するの……


 一年がたち、キリーに戻ってきたビアンカは再び変わっていた。

 確かに出処進退は上手くなった。

 今度は本当に、誰からも好かれるようになった。

 真摯に相手の話を聞き、それとなく誤解を受けないように、釘を早い目にさしている。


 見事に男を近づけない。

 女の魅力はパワーアップしているが、難攻不落の女になっている。


 これはこれで、ミハエルは頭が痛い……

 しかも完全に百合になっているように見受けられる。


 しかたない、どこかの女の側室にでも……

 そんな事を考えていたミハエルにビアンカは、

「お祖父様、ビアンカはどこにも嫁には行きません!まして女の側室などにもなりません!」

「私は決めました、この身はヴィーナス様に捧げます、心も捧げます」

 といい切ります。


 そしてビアンカは七年後に寵妃候補になり、その年に寵妃となった。

 長い長いビアンカの純愛は、ついに実を結んだのである。


 テオドラとは永く付き合っている。

 テオドラの嫁ぎ先の宿屋にはよくヴィーナスが泊まる。

 それはビアンカの口添えも多分にある。


    FIN



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