最低の女なのよ!


「その殿方、それからどうなったの?」

 テオドラが聞いた。


 そういえばあの方、見ないわね……

 記憶を総動員して思い出した……


 町を出ていった……何でも未開の地である、南部辺境諸侯領にいるとか……

 ハンスさんといったかしら……

 ビアンカは、とぎれとぎれにテオドラに語った。


「南部辺境諸侯領!?……余程辛かったのね……何もいわずに出ていったの?」

「やはり殿方ね、いたたまれなかったのでしょうね」

 テオドラにいわれて……ハンスの気持ちに、思い至ったビアンカである。


「私の何気ない言葉から、一人の殿方の人生が……」

 私はなんて女なの……


 ひどく落ち込んだビアンカではある。

 テオドラは可哀想に思ったようで、ある事を語り出した。


「私ね、この間までガルダにいたのよ」

「そこで『死の女王』に、出会ったことがあるの……恐ろしかったわ……」


「盗賊団が皆殺しにされたわ……でもそれは、私たちを守るためだったのよ……」

「『死の女王』と呼ぶには、あまりに失礼だった……人の行動は見る角度で違うのよ……」


「ねぇ、ビアンカ、確かに貴女は、多くの殿方を不愉快にさせたかもしれない」

「もう少し上手く立ち回れば、よかったのは確かと思うわ……」


「でもね、人生ってのは、自分でドアを開けていくものよ」

「幾つかのドアから、自分で一つ開けるのよ」


「『死の女王』は顔色一つ変えることなく、盗賊を殺していかれたけど、あの方はそれを自ら選択されたと思う」

「普通なら守ったものに対して何かあるはずよ、胸をはってもいいものでしょう?」


「でも違ったのよ、あの方は、『止むを得ず巻き込まれたが、迷惑をかけるつもりはない、後の始末はよろしくたのむ』、といってお金を置いていこうとされた、村長さんの奥さんが受け取らなかったの」


「すると、あの方は素顔を晒して、『ありがとうございます』とお礼をいわれたの……」


「多分、あの方は、自分のなすべきことをされただけなのよ、その結果が、私たちを守ったことになるのよ」

「盗賊に対して、腹がたったのかもしれないし、私たちを守ることが、あの方のなすべきことなのかもしれない、または単に、気まぐれだったのかもしれない」


「でもね、盗賊が来て、たまたま『死の女王』がその場におられた、私は思うわ……神様のご配慮……」


 正直ビアンカは、テオドラが何をいいたいか、わからないのであった。

 テオドラは続けた。


「ねぇ、ビアンカ、人は自ら人生を選ぶのよ」

「たとえ神様の手のひらの上で踊っていたとしても、ドアは自分の手で、開けるものなのよ」


「決して他人のせいではないし、他人の影響でドアを開けたとしても、その影響を自ら選んだ結果なのよ」

「だからビアンカが、その殿方のことを気に病むことはないのよ」


 テオドラは、彼女なりの精一杯の慰めを、いってくれたのだ。

 でも、ビアンカの胸には響いた言葉だった。


 人は自ら人生を選ぶのよ……そう、確かにその通り……

 私が至らないのも、私が選んだ結果なのよ……


 お馬鹿さんなのも、自ら招いた道……そして私は誰も好きにはならなかった……これも私が選んだ道……

 確かに配慮が足りなかったのね……


 好きにならないのが、分かっていたのでしょう?

 なら行動をもっと考えるべきだったのよ……


 この時、ビアンカはあることに気がついた、それは核心をつくものだった。


 私は……チヤホヤして欲しかった……のでは……そう……それが真実……

 ろくでもないのね、私って……


「ビアンカ!顔色悪いわよ!」

「テオドラ……私……酷い女よ……今気がついたわ……」

「私……チヤホヤして欲しかったよ!最低よ!最低の女なのよ!」



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