キリーのおばさんたち
アポロは翌日、帰っていった。
ギルベルトは弓を練習しながら、集まってきた船の船長たちと作戦を練っていた。
「ひとついっておく、我等の義勇艦隊はエラムで唯一の武装商船だが、どうやら北方蛮族の船は専門の戦闘艦艇、つまりは軍艦のようだ」
「まだそれがどんなものかは分からぬ、もし軍艦ならばすぐに逃げよ」
「生命あっての仕事、危険は望むところだが自殺は愚かなことだ、では始めよう」
ある船長が、
「キリーの港は、隠れた岩礁があちこちにあり、細い水路を通らねばなりません」
「案内なしに入港はできませんが、この大船団での物資を、どうして揚陸させるのですか?」
キリーの港へ入るためには、水先案内が必要なのだ。
案内なしに入港しようとすると、まず隠れた岩礁のおかげで難破する。
難破したらキリ―沖にうようよいる、海獣もどきの狂暴な魚?のご馳走が増える。
「水先案内はもうすぐやってくる、ただし女だから優しくしてやれよ」
「イシュタル様の奉仕の魔女団がキリーの漁師の妻たちを連れてくる、彼女たちは水先案内が出来る」
「いっておくが、イシュタル様のお声がかりの女性、良からぬことをすると、とんでもないことになるぞ」
「たしかに……」
イシュタル女王……冷酷で名が通っているジャバの女王、そしてエラム世界における至高の存在、黒の巫女、その意向に逆らうものなど、ほとんどいない……
とくにジャバの人間で、イシュタルに逆らうものなどいないのである。
あまりに残酷で冷酷、前国王の生首を平然と受けて、そしてその妻子を奴隷にし、毎晩慰み楽しんでいると、噂されている……
そんな女王の庇護がある女に、手を出す豪の者など絶対にいない。
でも杞憂であった、やってきたのはとても肝の座ったおばさんたち、海の男もタジタジであった。
よく考えたら、キリーは元々漁師町、その漁師の女房、海の男の操縦法など簡単なのである。
「兄さん、そこの酒はうまいよ、男だろ、もっと飲まなきゃ、立つものもたたないよ!」
「いや……これ以上は……」
「だらしないわね、家の宿六はもっと飲めるわよ」
「あんた、いい男ね、うちの娘の婿にならない、いまなら妹も込み、どうだい!」
「娘さんは綺麗?」
「私にそっくりさ、別嬪に決まっているでしょうが」
そこらの男よりも、ごっついおばちゃんちゃんにいわれてもね……
でも犠牲者が続出、キリーの町の婿日照りはこの時解消されたのかもしれない。
案ずるより産むが易し、あっさりと戦略物資を荷揚げし、帰りに難民をジャバまで運んだのだが、行きも帰りも結構海賊が襲ってきたのは確か。
でも、ギルベルトのボーガンと火炎瓶で海賊船は炎上、どさくさに紛れて反対に海賊船を略奪。
とくに三隻目の海賊船は、人さらいの船でさらった婦女子を山ほど積んでいた。
おおくはアムリアの難民で、逃げる途中にさらわれた女たちであった。
ギルベルトは激怒して、その海賊たちを去勢して、コナで南部辺境諸侯領の奴隷商人に、二束三文で売り飛ばした。
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