後任
「ギルベルト、少々やり過ぎではないか?」
アポロが帰ってきたギルベルトを捕まえて、苦情を云っている。
「何が?」
「海賊を売っぱらった件だ」
「いけなかったのか?金は国庫に入れてもいいが」
「金じゃない、売り先だ、南部辺境諸侯領に売ったのはまずかった、情報が漏洩する可能性がある」
「南部辺境諸侯領とは戦う可能性がある」
「……それは、申し訳ない……」
「まぁ何とかしよう……」
アポロは配下の組織に命じて、海賊たちが売られた直後に抹殺させているのだが、そこは恩着せがましくいったのだ。
ギルベルトは意外に単純だった、「恩にきる」と云った。
アポロはそこで、
「実はさらに頼みがある、ハニーまで同行して欲しい」
「俺は……」
「知っている、しかし何も聞かず来て欲しい」
アポロの声には、命令が含まれていた。
「分かった」、ギルベルトは同意するしかなかった。
何か嵌められたと思ったが、その真意は分からなかった。
ハニー……
今をときめくジャバ王国の首都。
四、五年前は、泥臭い地方の田舎町ぐらいの名もない町であったが、今ではホッパリアやジャイアール、ロンディウムと、肩を並べる大都市になり上がっている。
町はジャバの国力を反映しているようだ。
ギルベルトはその都の、第一の宿屋に監禁された。
二日後、ニコルがやってきた。
イシュタル女王のハレムの女官長で、アポロの妻になった女だ。
その姿を見て、
「もうすぐか?」
「双子かもしれないわ、何で来てもらったのか、分かるでしょう?」
「義勇艦隊司令を退任するのか?後任は?」
「だから呼ばれたのでしょう!イシュタル様はお忙しい方、いつ、このジャバの都にお帰りかは分からない」
「そのために待機してもらっているのよ」
「……俺が後任なのか?しかし一応、俺は女だぞ?」
「それはイシュタル様の御心次第、とにかく私たちとしては、貴女しかいないと思っている」
「しかし、俺は抱かれるつもりはないぞ?」
「それは自分で決めればいい、その様に、イシュタル様に申し上げれば済むこと」
「イシュタル様は無理強いなどされない、巷のうわさは信じない方がいい」
ギルベルトは諦めたのか、ハニーの夜を楽しんでいた。
ただギルベルトは、素人女には手を出さなかった。
そして突然呼ばれた。
「呼ばれているそうだが、やって来たぞ!俺がギルベルトだ」
「ニコル司令、呼んだのは執政か?」
我ながら陳腐な演技とは思った。
「私です」
一瞬だがギルベルトは圧倒された、目の前にいたのはまごうことなき女神……
人がどれだけ想像しても、この美しさは想像できない……
ひれ伏しそうになるのを、やっとこらえたギルベルトだったが、
イシュタルの、『二三質問して……、いいですか』という言葉に、
「お好きなように、何でも答えるよ、男関係とか、スリーサイズとか」
と返事して、アポロたちを少々あわてさせた。
イシュタルはギルベルトを気に入ったようだ。
かっこいい旗をくれとの要求に、無造作に王宮のカーテンを引きちぎり、黒地に銀の髑髏の旗を魔法で作り下賜してくれた。
イシュタルは、再度のキリー行きを命じた。
そして、
「無事に入港すれば、美味しいお酒を飲ませてあげます、とても強いお酒を」
俺はこの女王と、酒が飲めるのか?
なんともいえぬ親近感、この人のならば……我が主……
そんな思いがこみ上げてきた。
今度は本当に戦いになる、イシュタル様も本気のようだ。
ジャバ一国になっても戦うお覚悟のようだ。
続々と物資がパレンバンに集まってきている。
義勇艦隊以外にも、商船隊も続々と集結している。
大船団ではあるが外洋に出られない船ばかり、沿岸航路をノロノロといく事になる。
それでも、精一杯の武装を装備している。
特に義勇艦隊所属の各艦は、護衛哨戒として船団前方を航行している。
物資を積んでいないので船足は軽い。
船腹にはバリスタといわれるものが装備してある。
ギルベルトが物資の中からバリスタを見つけ、コナに停泊して突貫工事で義勇艦隊各艦に搭載したのだ。
勿論、例の火炎瓶の効力を知っているからで、敵とやりあうときは、これを切り札にするつもりなのだ。
「操作はイシュタル突撃隊の面々に任せればよい。」
途中で海賊船を練習台に、艦隊は技倆を上げながら、ノロノロと沿岸を航行、ついにキリー港外の海域までやってきた。
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