ジャバの百合はお綺麗
貴賓室でギルベルトはアポロと初めて会ってみると、辣腕家……それが第一印象……
この男がジャバをここまで変えたのか……
ニコルの旦那だものな……あのニコルが惚れたのだからな……
イシュタルという女、ひと目でこの男を見抜いたのか……
大した女だ……あっさりと全権委任などするのだから……
「アルジャが陥落、その後のガルダ街道の会戦でアムリア帝国軍が潰滅、リゲルも陥落、アムリア帝国は滅亡した」
「貴君には申し訳ないが、キリー防衛のため戦略物資を運んで欲しい」
「カティサーク号が出港可能になるのは三日後と聞く」
「それまでにパレンバンへ戦略物資をかき集めると共に、義勇艦隊の稼動可能な船を集結させる。」
「それを率いて、キリーまで再度航海して欲しい」
「……」
「ギルベルト、義勇艦隊を率いての海賊相手の戦闘では、見事な活躍だったと聞く」
「今回のキリーまでの航路には、正規の戦闘艦と戦うことになるかもしれない……」
「北方列島の蛮族……」
「そうだ……詳しくはいえないが、ジャバはいよいよ伸るか反るかの戦いをすることになりそうだ……ニコルには荷が重い……」
「いいよ、でも報酬はいただくよ」
「なにが欲しい」
「そうだな……私は女好きだからな……この娼館の女を二三人、買い取ってくれないか?」
「お前!……いいだろう……好きなのを選べ」
ギルベルトは、マーメード娼館のまだ手付かずの女、十二三歳程度の三名を指名します。
「お前たちは私が購入した、主として命令する、ジャバ執政夫人におつかえせよ」
「夫人は身ごもっておられる、注意しておつかえするように」
「ニコルの為に?」
「私のためだ、私はもうすぐ生きるか死ぬかの航海にでる」
「せめて、何か少しは役に立つことをしておかなければ、黒の女神様に嫌われるだろう?」
「俺でも、女神の加護は欲しいのさ」
アポロは思った、巧妙な買収……
それとも額面通りの行為……
この女はわからん……イシュタル様と似たような雰囲気も感じるが……百合の女は理解しにくい……
そう、カティサーク号のギルベルト船長は女性、ジャバでは有名な女なのである。
そもそもエラムの世界は、男女の出生比が歪で、それゆえに一夫多妻制のほかに女性婚多妻制とも呼べる婚姻制度が成立している。
古代世界ではよく見られる男性優位世界で、女は子を産む奴隷、妻とは自ら子を産むとともに、主人のために女たちを管理する存在である。
男が優遇され、妻や娘は家長の財産、売り払うことも出来れば、相続することも出来る。
しかし女性婚多妻制というものは、この男優位の立場に、女も立てるということなのである。
ただかなりの特例ではあるのだが、エラムではおかしくはない、ゆえに百合というものも社会は許容するわけで、女が娼館に女を買いに行くのも珍しい事ではない。
ギルベルトは、ちょっと細長の大きな目と、赤い大きめの口、細面の顔をしている。
中性的な雰囲気を漂わせて、相当なというより破格の美人である。
ジャバの男は誰もがギルベルトを側室にと望んだが、拒絶されている。
前ジャバ国王もかなり過激な手段に訴えたのだが、返り討ちを食らったようだ。
かなりの親衛隊が手傷を負ったのであるが、ギルベルト本人も刀傷を受けたようで、以来ギルベルトは港町から外へは出なくなった。
船と港以外にはギルベルトの姿はない。
この親衛隊の一件で、海の男たちもカティサーク号のギルベルトだけは認めたのである。
しかもどちらも女好き、好んで娼館に入り浸るギルベルトは、彼らにとって男なのである。
酒も相当なものでまず飲み負けはない、ただ一度だけ、ギルベルトを酔わせた男がいるが、この男にギルベルトは身を任せたのだ。
しかし男との睦事は面白くない、やはり女同士が性に合っていたようである。
ギルベルトは荒くれどもを従え、数ヶ月もの航海で、女として何不自由なく過ごしている。
勿論、身を任せているわけではない、過去幾度も馬鹿が寝室に忍び込んだが、大事なところを失った。
そしてその内の半数は荒海に投げ込まれ、残りの半数は手足をくくられ砂浜に置き去りにされた……
エラムの砂浜には、誰も近寄らないのが常識なのである。
肉食の怪物、ウミサソリキングがうようよいるのだ。
地球でいえば、シルル紀後期に生息した学名プテリゴートゥスに似ているが遥に大きく、体長は大人の身長の三倍はゆうにある。
彼らは砂浜に生息しているのだ、その結果は身の毛もよだつことになる。
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