ヴィーナスの女たちⅢ シュードラ島奇譚 【ノーマル版】

ミスター愛妻

ヴィーナスの女たちⅢ シュードラ島奇譚

第一章 ギルベルトの物語 男装の麗人

マーメード娼館の幸運


 カティサーク号の船長ギルベルトは、海賊を蹴散らしながらキリーへ塩を運び、ジャバ王国第一の港町、パレンバンへ戻ってきた。


 久しぶりに娼館で、女を買って大ドンチャン騒ぎ、そこにある男がやってきた。

 その男のお陰で、ギルベルトは義勇艦隊を率いて、再びキリーへの航路を……航路の先に敵の武装船団が……


     * * * * *


 カティサーク号のギルベルト船長は、ジャバでは有名な人物である。

 今日もジャバ王国第一の港町、パレンバンで浮名を流していた。


 このパレンバンは、ジャバ王国の唯一の輸出品、奴隷を取り扱い、繁栄を謳歌していた町。

 イシュタル女王が誕生して約四年と半ば、ジャバ王国は塩という、新たな特産品を手に入れ、大陸の三大国、アムリア帝国、ホラズム王国、フィン連合王国と、肩を並べ始めるようになっている。


 いまやパレンバンは、塩の輸出港として、奴隷貿易の頃よりもさらに繁栄し、数多くの商船が、中央大陸沿岸の航路を通り、港へ出入りしている。


 ジャバには先頃、ジャバ王国義勇艦隊というものが成立した。

 王国から補助金および特産の塩の配給を、優先して受ける特典を持つ代わりに、義勇艦隊司令官の命令に服することになる。


 先ごろ、カティサーク号はニコル司令官の命令に服し、ジャバ王国が新たに手に入れた、港町キリーへ塩を運びこんだ。

 航路に出没する海賊を、殲滅しながらである。


 アムリア帝国への貿易拠点、中央大陸の北方へのジャバの窓として、キリー航路の安定は、ジャバにとっては最重要事項の一つ、そして幾隻かの義勇艦隊所属の各船を率い、カティサーク号は見事な武勲を挙げて、凱旋してきたのだ。


 ギルベルトの名声は、この武勲の前から鳴り響いている。

 スマートでキリッとしていて、カッコいい立ち姿、女がみれば、だれもが胸をときめかす程の美しさ、そして中性的な雰囲気……さらに金払いもよく、そして女好き……


 パレンバンに数ある娼館では、カティサーク号が入港してくると、ギルベルトがやってくることを、心待ちにしているのだ。


 そして今日はその幸運が、マーメード娼館に訪れた。


「野郎ども!今日はここにするか!皆で稼いだ金だ、海賊どもをぶちのめした報奨金だ!」

「会計主任、貸し切りの交渉をしてこい!」


「報奨金を全部使っていいのですか?」

「構わん、生命をかけた金だ、皆で生命の洗濯だ!」


 会計主任は有能な男である。

 マーメード娼館は三日の間、貸し切りになり、さらに各自にそれなりの、分配金を出すことに成功した。


 男どもは、溜りに溜まった欲望を吐き出し、三日後、すっきりした顔の男どもに、ギルベルトはさらに三日の休暇を与えた。


「では船長、どこか宿屋でもとっておきましょうか?」

 会計主任が、ニヤニヤしながらいいます。


「いや、ここで綺麗な女でも引っ掛けて過ごすさ、女のベッドが俺の宿屋さ。」

 肩をすくめて会計主任は、

「では三日後、カティサーク号で」

 と、いってどこかへ消えていった。


「奴も女がいるようだな……陸にあがりそうだな……」

「さて、どうするか……あのようにいったが、女も飽きたし、しばらく寝て暮らすか。」


「ギルベルト様、ご面会の方が来ておられます。」

 娼館の端女が名刺を持って来た。


「ほぉ……」

 名刺には王国の執政、アポロの名があった。


 マーメード娼館は大騒動となった。

 なにせ、娼館に執政が訪れたのだ。

 外には、イシュタル突撃隊が娼館をとりまいている。


 とりあえずマーメード娼館は後三日、さらに貸し切りになった。


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