第14話 深度10メートル、よーそろー
翌朝、美沙ちゃんの機嫌は直っていたが、別の部分が壊れていた。お腹だ。
「ご、ごめんなさい…お兄さん。今朝はお腹が痛くて…」
「うん。わかった」
原因もわかった。別に、最近目覚めつつあるニュータイプ能力じゃない。単純な推理だよ、ワトソン君。昨日、挑戦した重量三キログラムのパフェ『マウントフッド・チョコパイナップル・グレートサンデー』だ。俺と真奈美さんはちびちびと食べていて、せいぜいアイス三個分くらいとバナナにパイナップル数切れをいただいてお腹いっぱい楽しんだ。残りの部分は、きれいさっぱり丸ごとすっぽり美沙ちゃんと妹の胃袋に消えた。
甘いものを食べるときは別腹でも、壊すのは共通腹である。忘れちゃいけない。
お腹を壊した美沙ちゃんが、脂汗を浮かべながら制服でモジモジしているのを見ながら登校というのも、忘れられない思い出になりそうだけど、そうすると美沙ちゃんがこれっきり思い出になりかねないので無理は言わなかった。
というわけで、本日も真奈美さんと二人だけで登校。
「……きのう」
真奈美さんが魔眼じーのまま口を開く。開いた口は見えないけど、声が聞こえたのでたぶん開いていると思う。
「うん」
「…たのしかった」
「それはよかった」
昨日は、妹がアイスを真奈美さんの口にがっつんがっつん押し込んでいたので、また怯えさせてしまったのではないかと危惧していたのだが、よろこんでもらえたのなら望外の喜び。
「…学校の帰りに、ああいうところ行ったの初めてだったから」
「そうなの?」
高校生にもなって、珍しいというレベルを超えているなと思ったが、そういえば真奈美さんは中学生のころからいじめにあっていて、高校生活は保健室登校→ひきこもり→保健室登校→補習(いまここ)という経歴だったなと思い起こす。
「…ま…」
「ま?」
「…また、つれて行って、ほしい」
連れて行きたいが、今月使える現金はすでに残り四百円である。無理だ。真奈美さんがパフェを注文して自分で払って、俺が水をおいしくいただくということになる。
「来月ならね」
「…らい…げつ」
来月か。今は八月だ。八月の次は九月が来る。すなわち新学期だ。
新学期になったら、真奈美さんはどうするんだ。また、保健室に戻るのか、それともクラスに復帰するのか。クラスはメモ一枚で真奈美さんを失禁させるほど怖いところなんだぞ。クラスメイトの前で漏らしたら、保健室登校すら危うくなりそうな気がする。ついでに俺も他のクラスメイトがいる前で、失禁した真奈美さんに抱きつかれるのは避けたい。三島とかが曲解して殺しにくるかもしれないからだ。
そんなことを考えている間に学校に到着。
先日から、補習の教室が真奈美さんのクラスの教室から、俺のクラスの教室に変わっている。佐々木先生が、先にいてなにやら書き物をしていた。
「おはようございまーす」
「…おは…ます」
「おはよう。二宮君、市瀬さん」
佐々木先生に真奈美さんを引き継いで、図書室へ…。
まさか今日もいるのかな。
いた。
「おはよう。二宮」
「おはよう」
カウンターに座る三島からもっとも離れた席に座る。
三島がわざわざ、こっちにやってきた。なんで来るんだよ。
「二宮、あんた。なんで夏休みなのに、毎日学校に来てんの?」
「お前こそ」
「私は、毎日なんて来てないわ。この間、二宮が一年生と乳繰り合ってるときがたまたま委員会の日だったのよ。…ちっ。まさに乳繰りって感じだったわね。一年生のくせに…。くっ。二宮、話をはぐらかさないで」
ちがう。はぐらかしたのは俺じゃないと思う。
それより、これはどうしたものかな。真奈美さんのことを言うべきだろうか。そこまで悩んで思い当たる。そうだな。一番ばれたくない連中には、どうやらすでにばれてるらしいし、三島は無駄な正義感があるからいいかもしれない。
「実はな、佐々木先生と美沙ちゃんに頼まれているんだ」
「『美沙ちゃん』!?なに?あんた、あの一年生のことを美沙ちゃんとか呼んでるの?」
あれ?食いつくところが違うんだけど。
「なんで、なれなれしく下の名前で呼んでツーショットの写真とか撮ったりしてるの?んで、あの子は二宮のことなんて呼んでるの!?」
「え、えと、『お兄さん』とかかな?」
「なんですって?」
「だから、美沙ちゃんは、俺のことを『お兄さん』って呼んでるよ」
「あ、あ、あ、あんた。あの子のことを下の名前で呼んで、自分のことを『お兄さん』って呼ばせてるの!?なにそれっ!?妹プレイなの?あんた、現実に妹がいるのに妹プレイなの!?いったい変態レベルいくつ?九十九?」
しまった。
俺が美沙ちゃんのことを市瀬さんと呼ばないのは、真奈美さんと紛らわしいからで、美沙ちゃんが俺のことをお兄さんと呼ぶのは、「真菜のお兄さん」という意味だ。しかし、三島には妹と美沙ちゃんの関係と、真奈美さんの部分を説明していなかった。
あと、レベル九十九は真奈美さんのドラクエⅢだ。
「ちょ、ちょっと待て三島。ご、誤解があるようだから説明させてくれ」
「言い訳とか男らしくないわ!あんた、それでも男ですか!」
今にも平手を張って、軟弱者!とかいいそうな迫力だ。
俺はレベルが上がった。ぱぱらぱっぱぱらぱー。
恐ろしい迫力の三島を前にして、理路整然とここまでのいきさつを説明しきった。レベルが上がった気がする。将来、社会に出てから役に立つスキルだ。プレッシャーを受けながら説明するプレゼンテーションの能力が確実に上がったぞ。学校とはつくづく学びの舎である。全ての瞬間に学びのチャンスがあるのだ。なんとなく、それっぽいこと言ってみただけ。
「ふぅん…。そうだったんだ。それで、二宮。その市瀬真奈美さんって子に毎日付き添っているの?」
「ま、そんなところ」
「で、その子をいじめた連中は、いつ粛清するの?」
なぜ俺の周囲には、こうアグレッシブでスターリンな解決案を提示する連中ばかりいるのだ。妹とか。
「しないよ。女子同士のいじめなんて、足がつかないようにしてるだろうし。下手をすれば、こっちの立場が悪くなるし、なにより、それで真奈美さんの学校生活が平和になる気がひとつもしないからね」
「……」
今度は、三島もなにも言わなかった。軟弱者とも、男らしくないとも言わなかった。
「ま、そんなところだから、三島も顔を髪で隠したヤシガニスタイルの子を見かけたら、刺激しないようにやさしくしてやってくれ。最低限ちょっかいを出さないでやってくれ。ヤシガニはこわがりなんだ」
「…わかったわ」
「さんきゅ」
「二宮…」
「なんだよ。まだ、なんかあるのか?」
「…え、い、いや。なんでもないけど」
「じゃあ、黙れよ。本読んでもいいか?」
「え、ええ」
図書委員の本分を思い出したらしく、三島がようやく素直になる。鞄から「ダブル・スター」を取り出して、続きを読み始める。
その日は、いつもにも増して三島の監視が厳しかった。説明したにもかかわらず、まだ俺が美沙ちゃん相手に妹プレイをしているという疑念がぬぐえていないのだろうか。論理は人の疑念を払拭しない、ただ追求させなくするだけだ。金言バイ俺。
◆◆◆◆
「…失礼しま…おわりました?」
四時間目の補習が終わるころを見計らって、教室に真奈美さんを迎えに行く。ちょっと早くなってしまったのは、俺が本を読み終わったのに気づいた三島が別の本を薦めそうになったからだ。図書委員仕事熱心すぎ。つまり図書室から逃げてきて、ちょっと早かったけれども全財産が四百円になっている俺は自販機でジュースを買うこともままならず、教室に来たというわけだ。
「今、追試の採点中だから入ってきてもいいわよ。二宮君」
答案に赤ペンを走らせながら、顔も上げずに佐々木先生が言う。
「へいへい」
「『はい』よ」
「はい」
佐々木先生は、しつこくも厳しくもないが、けっして日本語の乱れを見逃さない。国語教師の意地のようなものを感じる。
真奈美さんの隣に座る。真奈美さんは、なにやらプリントを机において書き物をしていた。
「なにやってるの?」
「…課題。補習と、課題と、追試で、出席日数に、してもらえるの」
なるほど。そりゃそうだ。夏休み中ほぼずっと補習とは言え、それだけでは履修範囲を終えられるはずもない。きっと、帰ってからも課題をやっているのだろう。
そういえば、俺、夏休みの宿題ぜんぜんやっていないな。
「佐々木先生。なんだか、ずいぶん採点に時間かかってますね」
「しょうがないでしょ。数学なんて、苦手だもの」
「先生、数学も教えているんですか?」
佐々木先生は、採点の手を止めてこっちを見る。
「現国ばっかり、こんなに補習してると思ってたわけじゃないでしょう」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ、そういうこと」
そう言って、また採点に戻る。
「……なさい」
「え?」
「市瀬さんは、気にしちゃだめよ。私が好きでやっているんだから。あと、私の担任しているクラスから落第者を出すと、それはそれで面倒なの。大人の世界は世知辛いのよ。『せちがらい』って、どういう字を書くかは知ってるわよね」
こくっ。
「そういうこと」
また、そういうこと…だ。ようするに世知辛いのだ。世の中は知れば知るほど辛いものなのか。それとも、世間を渡る知恵というのは辛いものなのだろうか。どちらにしろ、世の中から自室に逃避して、今、そこに戻ろうとしている真奈美さんは、誰よりも分かっているのだろう。
「あ、真奈美さん。俺も、俺が好きでやっているんだからね」
だから、せめて。ちょっと世知じゃないところを言いたい。考えてみたら、なんの報酬もなくもう二ヶ月も毎朝欠かさず早起きをして付き添っている。なんという俺のアガペー。
ごめん、嘘ついた。美沙ちゃんと会えるとかそういう下心でやってる。
「……う、うん。あ、ありがとう。なおとくん」
真奈美さんの課題をやる手が止まって、ちょっとシャーペンが震えている。まずい、怖がらせてしまった。こわがりヤシガニさんの扱いはむずかしいな。
「さ、出来たわ。九十五点。合格」
「九十五点!?真奈美さん、頭いいんだっ!」
つい大きな声で驚いてしまった。真奈美さんがびくっとした。うわ。脅かしてしまった。ごめんなさい。
「…そ、そんなこと、ない。ほ、補習でやったところと同じ試験をす…ぐにやるから。せ、先生につ、つきっきりで教えてもらってるから…」
確かに、それはずいぶん有利だとは思うけど。それにしても数学九十五点なんて、もし普通の期末テストで出したら一気に学年トップクラスだぞ。なんといっても、一問しかまちがっていないんだから、百点がいない限り一位タイのスコアだ。
「言っておくけど、市瀬さん、他の教科もほぼ満点よ。追試だから、どんなにいい点を取っても成績表に『優』はつかないけど」
「へー」
なんとなく、ひきこもりで手のかかる子という印象しかなかった真奈美さんを見直してしまった。
◆◆◆◆
真奈美さんと、二人で帰路を歩く。
じーわじわーじーじーじーわじーわ。セミさんも、全力で夏だと告げている。セミの言葉の分かる人には『やりてぇーやらせろーやらせてーうおーこづくりぃー』とか聞こえるんだろうか。夏というのは実にクレイジーな季節だ。
「…なおとくん。学校の帰りに、道草とかするの?」
「まぁ、するかな…。ほぼ帰宅部だし」
いろいろな部に籍は置いているんだけど、ひとつもまともに出てないしね。そういえば、学校の視聴覚室で好きな映画とか見てやろうぜという部活はどうなったんだっけ?
「…いいな。あの…わ、私も道草したい」
昨日ので味をしめたな。俺もできれば願いをかなえてやりたいところだけど、なにせ財布の中に四百円しかない。飲み物を買うのに百円とすると、三百円しか予算がない。真奈美さんのご両親からいただいたスイカで交通費は無料にできるとしてもだ…。全財産が千円を切ると、とたんに金のことが頭にのぼるようになる。貧すれば鈍するという言葉は、この状態のことか?ちょっと違うかな。佐々木先生に聞いてみよう。覚えていたらだけど。
とにかく、今の俺には金がないのだ。あと四百円で八月の残り二十日を乗り切らなくてはいけない。一日につき二十円だ。
「公園で水を飲んで、おしゃべりして、また水を飲むならできる」
真奈美さん、本当にすまん。
「…ほんと?じゃあ行こう」
まじぇ?
二人で道をそれて、徒歩五分ほどの児童公園に行く。天気予報では、最高気温は三十三度と告げていた。偽りなし。照りつける太陽のパワーで児童公園から児童が消えている。ひとりも児童がいない。シンプル無料シリーズ。ザ・公園。
とことこ。真奈美さんが公園中央の滑り台とコンクリートの山と土管を組み合わせたみたいな遊具に向かう。のそのそ。四つんばいになって、土管の中に入っていく。ここでもひきこもりですか?
しかたない、俺もついて行くか…。真奈美さんはジャージだからいいだろうけど、俺、制服なんだよな。ま、いいか。制服の膝を汚しながら、土管の中に入っていく。土管の中央で真奈美さんが体育座りをしている。俺も並んで座る。
「…深度十メートル…よーそろー」
真奈美さんの声がコンクリートの壁に微かに反響する。そういえば子供のころ、こういうところで潜水艦ごっこをしたっけなぁ…と思い出す。よし。ここは、思いっきり付き合うことにしよう。正直、ちょっと俺も潜水艦ごっこしたい気分だ。他の友達とだったら、恥ずかしくてとても出来ないけど、今ならできる。むしろやらなきゃ損だ。
「右、十五度転換」
「右、十五度転換」
真奈美さんが復唱する。おおっ。わかってるな。
「魚雷管注水よし」
「注水よーし」
「魚雷発射。準備」
「魚雷発射。準備。…目標。本艦の軸線に乗ります」
真奈美さん、どこで覚えたんだ。見事なノリだ。
「魚雷、発射ぁー」
「魚雷、発射!」
「…」
「…着弾まで、三十秒。二十秒。十秒、九、八、七、六、五、四、三、着弾します」
完璧だよ。真奈美さん。むぅ…俺の人生最高の潜水艦ごっこがこの歳になってできるとは。
「ふふふ」
真奈美さんが笑った。
あ、そっか。笑ったのか。
おお。
ちょっと感動だ。
「海上全方位クリア。浮上します」
真奈美さんは、隙がない。本当にどこで覚えたんだ。あの部屋を埋め尽くす本の中に潜水艦モノがあったのかな。
真奈美さんが、また四つんばいで垂直につながっている土管へと移動し、はしごを上る。そうだ。潜水艦ごっこの最後は搭乗口から出ないといけない。子供のころのルールを思い出して、後ろについていく。
あ…。
はしごを上っていく真奈美さんのお尻は、子供のころとは違ってルール違反だ。小さいのにプリプリとしていて、かわいくてエロい。ジャージごしなのになんてけしからん可愛さだ。
どきどきどきどき。
真奈美さんが上の出口から消えたのを見届けて、俺もはしごを上る。
わ。
出口から顔を出すと、真奈美さんの顔がすぐ近くにあった。前髪が俺の前髪に当たるほどの超至近距離。つまり、真奈美さんのあのセルロイド人形の顔と超至近距離。高い鼻が当たりそうだ。
「ふふ…たのしい…」
ごくり。
相変わらず表情に乏しい顔。だけど目だけが少し細くなって、きれいな切れ長になる。綺麗だ。
「なおとくん…は?」
真奈美さんが話す度に、ふわっと息がかかる。いい香り。シャンプーとリンスと石鹸と、なんだろう甘い香り。そりゃそうだ。今、俺の頭は真奈美さんの前髪の内側にいるんだから…。いい香り。桜色の唇。長いまつげ。唇…。
おわーっ。
ちょ、ちょっとまて。だめだ。キスしそうだ。キスしないでいられないよ。これは。だめだ、だめだ、だめだってば。
緊急潜行!はしごを逆戻り。ヘタれた。
どどどどどどど。心臓のリズムが、妹の大好きなへビィメタルになっている。マズい!真奈美さんを女の子として意識するのはマズい!だって、部屋で二人っきりになったり、しょっちゅう下着姿で出現したり、そんなことには絶対になって欲しくないけどお漏らししたり、抱きつかれたりする可能性だってあるんだぞ。今までは、女の子というか「真奈美さん」だったから、まだあの程度で済んでたわけで!
「なおとくん」
そんな俺の焦りを知ってか知らずか、真奈美さんが土管の水平入り口から這いよってくる。前かがみ。真夏なのに長袖ジャージの真奈美さんだけど、襟元はちょっと広めに開いていて、開いていて…のわーっ。
いや。ちょっとまて、逃げ出したり、近寄られたりするのを拒否したら、真奈美さんのトラウマ地雷を踏んだりしないか?踏みそうな気がしてきた。中学生がエンガチョをするのかどうか知らないが、ありえなくはない。真奈美さんが、そのまま這いよってくる。そのままってのは、俺の脚を乗り越え、腹を乗り越え這いよってくるってことだ。触れているのは真奈美さんの手と膝なんだけど、なんでこんなに気持ちいいの?手と膝だよ。硬いんだよ。でも、この重みがなんというか。なんとも言えないというか…。まてまてまてててててて、落ち着け。これもごっこだと思え。戦艦ごっこなのだ。
《主砲発射、準備》
主砲発射準備するな。俺の心の声よ、お前なに考えてる。真奈美さんだぞ。
真奈美さんがほぼ、俺の首付近まで到達。
《敵艦、本艦の射程に入ります》
だめだ。俺の心の声は終わってる。頼りにならん。
また、真奈美さんの前髪の中に捕らえられた。
「真奈美さん?ど、どうしたの?」
「…なおとくんの顔、近くで見たい」
寄ってくるなー。うわ。なんか胸の付近やわらかっ。やわらかっ。顔、綺麗。ひ、瞳茶色いんだな。色、薄いな…。
《ショックガン動力連動。誤差修正右一度、上下角三度》
動力連動するな俺の心。というか、身体。もう、お前黙れ。
うわ。この重み。真奈美さん?体重預けてきてない?
重みが胸から腹の方まで…☆△□!!やわらかっ。華奢っ。ほそっ。真奈美さん、今それより下側に重みをかけちゃだめぇーっ。らめぇええーっ。
「なおと…くん?困ってる?」
「こ、困ってないというか、嫌じゃなさ過ぎて困ってる」
真奈美さん、華奢でいい香りがして温かくて柔らかくて、男子高校生が脳内出血で死んじゃうからやめて。
ずりずりずりずり。
後方にはいずって脱出する。理性が残っているうちに脱出しないと、たいへんな過ちを犯す。あ、犯すがダブルミーニング。すなわち絶対ダメ。垂直につながる土管まで脱出して、小首を傾げて四つんばいになっている真奈美さんと距離を取る。
「ま、真奈美さん。あ、あのね」
「うん…」
よってきた。さっきまでの柔らかさと重みが再生される。どどどきどどどど。
「そ、そうやって抱きつかれると、その…いろいろ…やばい」
「…いや?」
「いやじゃなさすぎてやばいの!」
「…気持ちいい?」
ぶっちゃけ気持ちいい。もっとやって欲しい。
「気持ちいいけど、ダメだよ!」
「どうして?」
「よくわかんないけど、このタイミングじゃない」
「…そう」
「わ、わかってくれた?」
なんで俺、説得を受け入れてもらって落胆しているんだろう。
「…いやじゃない?」
「嫌では、ないよ。それは間違いない」
間違いそうなくらい間違いないよ。
「……よかった」
「そ、そろそろ帰ろうか?」
「うん」
汗だくだった。
(つづく)
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