えぴそーど6♡血みどろ教室

静寂が当たりを包む。

そして私は冷や汗を流す。


え?え?何この雰囲気。未来部がやばいって噂は本当だったの?みんなの忠告をちゃんと聞いておけば良かった……!

「さーて、これで月宮ちゃんに『素質』がなかったら大問題だね〜☆めんどくさい事になったなぁ☆」

「ほんとよ。取り敢えず口外出来ないように口封じしなくちゃね」

「私殺されるんですか〜」

内空閑さんと保科さんの顔が涙で歪む。もう家に帰れないの〜?

「殺しはしないわ。今のうちはね」

「やっぱり後から殺すんじゃないですか〜〜」

「うるさいわね、着いてきなさい」

半ば引きずられるようにこの空間を後にした。


内空閑さんが扉を開けると、さっきのピンクや水色、黄色が混ざり合った空間に戻ってきた。

慣れた手つき……。空間と扉は同化しているのに、まるで扉がどこにあるのか分かっているみたいだ。二人は何度もここに来てるの?

「ここで話すのもなんだわ、部室に戻りましょ。」

「りょ〜かい☆」

内空閑さんが胸にぶら下がったネックレスを持ち上げる。先端にあるのはフューシャ色のハート形の宝石が付いた鍵。

「あ、こっち側にも扉があるんだ」

私達が今入ってきた扉とは反対側にも扉があるようで、内空閑さんは鍵を翳す。


すると大きな鍵穴のようなものが浮かび上がってきた。金色の装飾が施されており、七色の小さな宝石が埋め込まれていた。

鍵穴はよく見るとくぼんでいる程度で、そこに鍵をはめる。

「わぁ……」

空間と空間の間に隙間が出来、そこから光が漏れ出す。

扉が、開いた。


気が付くと、私達は学校の教室の中に立っていた。

ここは、未来部の部室だ。

「あーあ、派手にやられちゃったね〜☆」

内空閑さんが天を仰いで乾いた笑い声を漏らす。

部室内は、私がさっき見た時と変わらず、血液のようなものがそこら中に飛び散っている。

「片付け大変だぞ〜……☆」

内空閑さんと保科さんは散らかった制服を拾う。

「着替えるから外に出ててもらえる?説明はそれからよ」

保科さんに言われて、私は無言で頷いて部室から出た。


頭がぼーっとする。さっきまでの出来事が全部非現実的過ぎて着いていけない。

保科さんと内空閑さんは平然としてるけど、あの怪物が怖くないのかな。もう学校に戻ってきたからあの怪物が襲ってくる事はないって分かってるのに、今更体が震え出した。


……あれ。私、どうして学校にはあの怪物が来ないって確信してるんだろう。もしかしたらここにだって現れるかもしれないのに。

そもそもあの空間は何だったんだろう。前にも一度来た事があるような気がしたんだけど……。でももし仮に来た事があったなら、あの空間をずっと覚えてるはずだ。でも私はあの空間に入り込むまで存在すら知らなかった。

頭の中の理解が追い付かないけど、自分が少しずつ触れていっている世界がとんでもなく恐ろしいという事は解った。


「おっまたせー☆」

「片付けを手伝ってほしいの」

部室の戸が開いて、私は部室内に引き戻された。

「話はこの教室中に散らばった怪し〜いものを片してからだねぇ……☆」

「最終下校時刻も近いんだからさっさと始めましょう」

二人の目が問答無用で「手伝え」と言っている。

「は、はいぃ……」

手伝わないって言う選択肢はどうやらないみたいだけど、血を片付けるなんて女子中学生がやる事なの?先生呼んだ方が良いんじゃないの〜??

「教師には絶対口外しないでよ。これは『未来部の問題』なんだから。」

保科さんが圧をかける。

「え、でも、どう見ても生徒だけじゃ片付けられるような問題じゃないですよね……?そもそもこれは誰の血、なんですか?」

「部員じゃないあなたに教える筋合いはない、けど……」

「ほぼ全てって言っていいくらい知っちゃったもんねぇ、月宮ちゃんは……☆」

内空閑さんもにやりとほくそ笑み呟く。


「あれはね。未来部に悩みを相談しに来た月雲第二中学校の生徒のものよ。」

「え……?」

どういう事?あの大量の血がうちの生徒のもの……?

「ここで一体何が起こったんですか……?」

冷たい汗が背中を伝い流れ落ちる。

「それはね……」

保科さんが口を開き掛けた瞬間。


ガラリと勢いよく戸が開いた。

そして部室内に入ってきたのは。

「保科さん!さっきはごめんなさい!!私夢中になってて、迷惑になるって分かってたのに……!」

涙を流しながら必死に叫ぶツツジ先輩だったのだ。

「え?え?」

学校中の人気者のツツジ先輩を目前で見たのは初めてだった。それにこんなに取り乱して泣きじゃくるツツジ先輩を見るのも初めてだった。

私は困惑する。でも保科さんと内空閑さんは全然びっくりしてない。むしろ、まるでツツジ先輩がここに来るのを分かっていたかのように、一瞬だけど嬉しそうに微笑んだ。

「良いのよ。その様子だと、さっきのが効いたみたいね」

「良かった良かった〜☆学校のアイドル先輩が元気になったなら本望ですよ〜☆☆」

「本当にありがとう……。あんなに悩んでたのにこんなにスッキリするなんて、あなた達はすごいわ……。みんな未来部はヤバい奴らだって言ってるけど、私は救われた。今度上下関係で悩んでる友達を連れてきてもいい?」

「もっちろん!!☆むしろお願いします〜☆」

「でもくれぐれも『おまじない』の事は言わないでちょうだいね?」

釘を刺す保科さんに、ツツジ先輩は首を傾げる。気付いたら私も同じように首を傾げていた。

「?分かったわ。あ、部室内の掃除、私がするから……」

「あああ!良いの!今日はもう帰って!」

保科さんがツツジ先輩の体をくるりと回して背中を押した。半ば強制的に部室から退場させられる先輩。

「ほんとにありがとう!また明日……」

どんどん小さくなるツツジ先輩の声。私は取り残された内空閑さんの顔をちらりと見た。

「…………」

夕日に照らされた内空閑さんの顔は、何とも表現し難いものだった。

悲しそうな、辛そうな、でも嬉しそうな、どこか悔しそうな……。内空閑さんって、こんな不思議な顔をするんだ。

「……さって!先に片付けてよっか、月宮ちゃん」

あれ。話し方もいつもと違う気がする……?

「ほら、ちゃっちゃと始めるよ!」

雑巾を手渡される。

「は、はい」

私は慌てて雑巾を受け取り、机の上を拭き出した。


この部活は、まだまだ謎だらけだ。

そして私は、その謎をそう長くはないうちに知る事になる。


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