えぴそーど5♡魔法少女的な
ぺたぺた。私は無我夢中で壁をまさぐった。
「扉、扉、扉……!」
無意識に何度も繰り返していた。
「扉が、絶対あるはずなの……あ!」
ピンクや水色が混ざり合う模様が、少しだけ外側にずれた。ここが扉?
「えい!」
思いっ切り押してみると、扉は簡単に開いた。
そしてその向こう側には……
「────……」
禍々しい雄叫び。
其れは灰色とも水色とも言える不思議な色だった。スライムに手足が生えてそれが大きくなったような大きな物体。口と思われるぽっかり空いた穴からは、耳を塞ぎたくなるような忌々しい叫び声。
そう、例えるなら小さい頃見てた魔法少女アニメに出てくる怪物だった。
「今回のは厄介ね!」
「ええ、やっぱり先輩が欠けたのは痛いよね……☆」
「早く新一年生の中から『魔女の素質』を持った生徒を探し出さないと……」
そして、飛び回る、
「あれは……未来部の部員さん達……?」
が、そこに在った。
「もうちょっと弱らせてからの方がいいよね??☆」
「ええ、『まほー』は無闇に使って失敗したら終わりだから慎重に……」
「でもなかなか弱らないよ??どんだけ悩んでたのさ〜☆」
「やっぱりあんたの描くポスターじゃ怪しがって誰も来ないのよ……」
「あれくらいババンと派手にやらないと目立たないでしょ〜っと、おっとと☆」
不●家のペ●ちゃんみたいな顔をしながら軽やかに灰色の怪物を避けるのは、内空閑さん。
「このままじゃ卒業前に終わっちゃうわね……。ふふ、これでも頑張った方かしら」
「なーに言ってんの☆まだまだ働かないと、先輩達悲しむよ〜??あと一年は頑張りな☆」
「そうね。私にはまだやる事があるんだから、こんな所で終わる訳にはいかないわ……」
そう言いながらぎりぎりで怪物を避けるのは、保科さん。
二人は昨日普通に話してた人達なのに、今はまるでアニメの世界から飛び出してきた「魔法少女」みたいだった。
人間があんなに跳べるなんて有り得ない。普通の女子中学生があんなに体を捻って飛べるなんて出来っこない。
あの二人は何者なの?あの怪物は何なの??この世界は何なの???
「ん??☆あらあら……」
「どうやらヒヨッコが紛れ込んだみたいね」
頭が混乱して眼鏡がずり落ちている私は、目の前に灰色の腕が伸びている事に気付かなかった。
「ったく、ちゃんと鍵閉めておいたってのに……!」
保科さんが飛んでくる。そして何かコンパクトのようなものを取り出し開いて、
「あんまり首突っ込んでんじゃないわよ!」
その中から溢れ出した光の粒子を怪物に向けて解き放った。
怪物は雄叫びを上げながらみるみるうちに溶けていく。
「内空閑、お願い!」
「りょ〜かいっ☆」
今度は内空閑さんが飛ぶ。そして今度はステッキのようなものを取り出して一振り。
「ばいば〜い☆」
ステッキの先端に付いた星から溢れ出した星形やハート形の光が、怪物を完全に消し去った。そしてその光も消えていく……。
そこに残ったのは静寂。と、保科さんと内空閑さんの小さな溜め息だった。
「っったく!どこから入ってきたのよネズミめ!」
「あんた危うく死ぬとこだったんだよ〜??ちゃんと感謝しなね??」
内空閑さんが私の頭をぽんぽん叩く。……あれ?
「あなた何年生?部室は関係者以外立ち入り禁止なの知らないの?」
「ポスター見て来てくれたんじゃない??でもさ〜、鍵掛かってたのにどうして入れたのさ??まさかドア壊した??☆」
「器物損壊罪よ」
「え、ちょ、ちょ、待ってください〜!」
また目が回って眼鏡がずり落ちる。
まさかと思ってたけど、この人達私の事すっかり忘れてるよ〜!
「私!覚えてないんですか?酷いです!」
泣きながら訴えると、二人は困った様子で顔を見合わせる。
「えーと……誰だったかな??」
「見た感じ一年……よね?流石に入ってきたばかりの下級生なんて全員覚えてられないわ」
「ん〜??でもあれ、何か見覚えあるかも」
内空閑さんが興味津々に私の顔を覗き込む。そしてあっと声を上げると、また不二●のペコち●んみたいな顔をした。
「あ〜!!月宮ちゃんだ☆」
「月宮?……ああ」
保科さんも思い出したらしい。二人は顔を見合わせて、保科さんは顔を顰め、内空閑さんは笑い出した。
「ごめんね〜??私達お客さんの顔や名前、学年やクラスはちゃんとは覚えない主義なんだ〜☆」
「企業秘密って奴だから、この部と関係ないあなたには教えられない。だから理由は訊かないでちょうだい」
「ま〜、でも……」
内空閑さんが目を細めて猫みたいな口をした。
「ここに来ちゃった以上、もう『無関係』って訳にはいかないよね〜……☆」
どうやら私はとんでもない世界に紛れ込んでしまったらしい……。
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