決勝戦
まるで何かにお膳立てされているかのようだ――そう思いました。
最初からこうなるように決められていて、私が何をしようと強引にそうなるような修正をされている――いわば、運命のような。
まさか。私が? なんで? 何のメリットがある? 私をここまで勝たせて――ああ、ああ、そうか。
私はここで、負けるんだ。
今までの劇的な勝利も、不戦勝も、全て。全て全て――
きっと、物語における主人公っていうのは対戦相手で、私は相手の物語に登場するただの1キャラクター。今私がこうして考えているのも悩んでいるのも、苦しんでいるのも、本来ある物語のために用意されたいわばサイドストーリー。補填のような存在。私はそれに巻き込まれただけ――
じゃあ負けたら、どうしよう。相手の手を握って「優勝おめでとうございます」と言おうか。ああ、それがいい。それが一番だ。清々しい。祝ってやろう。きっとそれが私に与えられた役割なんだ。
……負けたら、私はどう思うのだろう。泣くのだろうか。WSに人生を賭けたわけではなく、大して情熱もない、私が。ただただ運だけでここまで上がってきたというただそれだけのことを失って、私はみっともなく泣くのだろうか。泣きたい人は他にいっぱいいるだろうに。失ったものが大きい人がたくさんいるだろうに。私は。私は、それらを押しのけて――泣くのだろうか。
ああ、それだけはなんか、嫌だな――
決勝戦が、始まりました。
「応援に行きますよ」
私が決勝に上がると知って知り合い達がそう言ってくれました。ありがたい。実は見に来てほしかった。心細かった。だから、嬉しかった。けれど、
負ける姿を、見てほしくはなかった。
複雑な心境だったので、何も言わなかった。「そう」とは言ったかもしれない。でも決して「来て」とは言えなかった。
乙女かよ。しかもわりとウザいタイプの。
「「よろしくお願いします」」
試合が始まると、相手は立ち上がりが上手くいっていないようでした。私は立ち上がりが好調だったのでここで差を付けたいと思いました。手札にCXが三枚。全部撃ち切る覚悟で行こう。そう思いました。
そして、レベル1に上がって本来発生させるはずの緑を蹴って赤を発生。扉を撃ちました。すると全部打点が通り、相手は1-4まで伸びました。
レベルが上がった相手はすかさずフーゴを並べ対応の風を撃ちました。横にスクアーロもいたので手札、ストック両方稼いでいます。
しかし、相手の表情は硬いままで、なんだか上手くいっていないようでした。
(あれ? もしかして「ない」?)
盤面が良いのに具合が悪そうな顔するということは、こちらが見える領域ではなくあちらだけが見える領域で何か問題があるということ。そしてWSにおける一番起こりやすい問題は――CX事故。
付け込む隙だと私はすかさず手札に溜まったCXを強打。さらに打点を伸ばします。
そこからもう1ターンもCXを強打。相手はマジかよというような様子を表してくれました。そうそうこれこれ。これだから相手の反応を見るのはやめらんねェなァ――
まるで悪役のように調子に乗ってガンガン攻めましたが、長くは続きませんでした。
相手がレベルを先行するということは、相手が先にこちらよりも高いレベルのキャラを出すということで、つまり、盤面が負けやすくなります。相手が風を採用していることもあって打点の差は縮まっていきました。
そして、お互いがレベル3になった時には差が殆どなくなっていました。
(ああ……そういうことね)
私はここでもまた、悟りを開いていました。急に熱が冷め、体が冷えていく感覚。
(相手が優勝するには絶好の条件じゃないか)
序盤、敵の猛攻を苦しみながらも受け流し、逆転する。いかにも主人公のような立ち回り。劇的な勝利。まさに物語。
試合前のネガティブな状態に引き戻され、またしも私は落ち込みました。
そうだった。負けるのは、私だった。なんで、勝てると思ったのだろう。勝てそうだと、思ったのだろう。なんで、そんなことを信じたのだろう――
レベル3。終盤です。私はクロック2ドローをして金塊を引きに行くよりもKCを並べてしっかり回復して相手の攻撃を耐えることにしました。私はまた、ここで自分が負けるのだと思いました。
(相手のデッキにはKCじゃ止められないGERが入ってる。GERをやられたら死ぬしかない。でもまあ、いいか。最初から負けてるようなものだ。今更、何を思うものか。負けたら、相手を祝えばいい。それで――いいじゃないか)
相手にターンを返し、相手が自分を殺しにくるのを待ちました。
相手はクロックにカードを置き、3-6になってまで何かを引きに行きます。
しかし、GERは出てきませんでした。盤面はレベル3ブチャラティ、康一&ACT3、スクアーロでした。
ブチャラティからのダイレクトアタック4点。通ります。次の康一君のアタックは通ったか通っていないかよく覚えていません。ただ、ここで私が3-6になっていました。まだ私が生きているので残りのスクアーロのアタックはKCで止められます。(生きた!)と私は思いましたが、相手が康一君のアタック終わりにすかさずスクアーロでアタック。カードを逆さまにしてパワー負け上等のアタック意思表示でした。これを通してしまうと負けてしまうので相手の素早い行動に負けぬ速度で私も「止めます!」と宣言しました。その時の様子はまるで、相手の居合を白羽取りするかのような速度でした。それまでお互いそんなに早く動いていなかったのに、そこだけはお互いに気持ちが逸ったのでしょう。
これで私にターンが返ってきましたが、ドローすると山札は3枚。KCでストックを使ったためストックは残り1枚。回復はできません。最後の山札をめくってしまうとリフレッシュポイントで負けてしまうので、アタックできる回数は2回までとなります。相手が3-6なので一度でもアタックを通せば勝ちになります。
もうラストアタックになりました。私は、ソウルが余分なKCを後列に下げ、後列の集中ジョルノとレベル0のブチャラティを前に出しました。
そして、康一君の前でサイドアタック――したのかどうか覚えていません。私はあの時、きちんとサイドアタックを、宣言できたのでしょうか。
トリガーステップになり、山札のカードをめくろうとしたのですが、手が上手く動きません。カードをめくるだけだというのに、その動作だけで一秒近くはかかったのではないかと思います。
私はこの時、怯えていました。
(負け……っ! このアタックが通らなければ確実に……負けるっ!)
あろうことか、自分のターンで。相手も3-6で絶望的な状態だというのに。今から相手を殺そうという時に。
私は怯えていたのです。誰よりも勝利に近い場所で、私はそれでも敗北に憑りつかれていた。
(嫌だ! ここまで来たんだ! ここで負けるのは――嫌だッッ!!!)
ようやくめくったカードはホルマジオ。2/1のカウンターのやつです。つまり、ドラが乗っていた。
(――ひっ)
その一瞬は、今でも忘れられません。あの瞬間、私は負けたと思いました。泣きそうでした。どうしてここまできてドラが乗るのか。呪いました。
(ホォールマジオーーーーっ!!!)
心の中で怨嗟の声を叫びながら、私は相手のダメージを確認しました。
相手の山札の上から2枚にCXは――ありませんでした。
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