第9話 第四層 待機時間

「ハァ……ハァ……ハァ……」


 俺はいつの間にか毎回戻ってくる待機部屋に戻ってきていた。


 何なんだっあの毎回襲ってくる気持ち悪さは!?

 もしかして、これからもずっと これが襲ってくるのか? たまったもんじゃないぞ それは!


「はぁっ……はぁっ……」


 段々と落ち着いてきた───ことで、今度はゴブリンの頭を吹き飛ばした事を思い出してしまった。

 不意に右手を見てみると、微かに震えていた。


「───っ」


 俺は本棚に目を向ける。

 命を奪ったという事実から目を逸らす為、あの気持ち悪さの正体は何なのか・気持ち悪さを無くす方法は無いかを調べなければいけない、とか最もらしい言い訳を自分にして、立ち上がって本棚に行き、本に手を伸ばし───


「………」


 手を戻した。


 落ち着け……落ち着くんだ俺。さっきもそれで本を読む事に没頭し過ぎて、途中で寝落ちしちまったんだろうがっ。

 先に睡眠を取るべきだ。


 そう考えた俺は、とりあえず寝る前に体を綺麗にしようとタオルを持って浴室へ向かった。



   □□□



 その後、シャワーを浴びて出た俺は、冷蔵庫に保管してあった食材で軽く料理をし、それを食べて腹を満たし、ベッドに寝転んだ。

 あんな事があったにも関わらず、俺は疲れには逆らえず ぐっすりと眠れてしまい、起きてみると、すでに八時間程 経過した後だった。……まぁ、待機時間が前回の時と同じぐらいあったならの話だけど。


 ………。


 ………とりあえず、本読もう。


 俺は本棚の方に行き、タイトルに『モンスター』やら『魔獣』、『経験値』に『レベルアップ』と入っている本を片っ端から取っていき、読んでいった。



   □□□



 それから数時間後───。


 なるほど……あのゴブリン・狼といったモンスター共が異常に強かったのは、と呼ばれる特殊なエネルギーを宿していたからなのか。

 魔素は宿っている生命が死ぬと空気中に放出されるけど、長い間 空気中に滞在していると自然に消失してしまう。故に魔素は、消失してしまわないように次の宿主を探し出す。

 それで、モンスターを倒した俺に魔素が入り込み、それがゲームで言う所の経験値となって、俺の体は強くなっていったという訳か。

 ゴブリン戦の時に出た力は、単に火事場の馬鹿力という訳ではなく、この経験値を得た事による強化が元だったのか。

 ちなみに、俺が魔術を行使出来るようになったのも、この魔素による強化が関係しているようだ。なんともまぁ珍妙な力だ。


 ふむふむ、なるほどなるほど……面白いな。相変わらず訳分からない状況ではあるけど、こういうゲームみたいな事が現実に起きていると思うと、柄にも無く興奮してきてしまう。


 ………。


「………ん?」


 そういえばと思い、待機時間の方を見てみると、


『只今、待機時間 残り 34321秒』


 結構な時間が経っていた。

 残り約十時間ぐらいあるけど……だからって「まだ大丈夫」とか余裕ぶっこいて本読んで、いつの間にか時間が過ぎたら困るし……ベッドの横にあった目覚まし時計を使うか。


 俺は一度立ち上がってベッドの方へ行き、約十時間後に鳴るようセット。

 その後、また本棚の方へと戻り腰を下ろすと、俺は読書を再開した。



   □□□



『只今、待機時間 残り 248秒』


 ピピピッ ピピピッ


「ん? ………あ、もう時間」


 俺は今読んでいる本を閉じて本棚に仕舞うと、立ち上がってベッドの方へ行き、目覚まし時計を止めた。




「………」


 ───殺ろう。殺らなきゃ死ぬ。殺らなきゃいけない。殺る、殺る、殺る。


 自己暗示を軽くかけ、武器の方に手を伸ばす。短剣を腰のベルトで挟み、剣の鞘を掴んで持ち上げる。


「スゥゥゥ………ハァァァ……」


 大きく呼吸をし、一度瞼を閉じ、そして、ゆっくりと開けた。


『只今、待機時間 残り 0秒』


 さぁ、殺ろうか。


 俺の視界は白で埋め尽くされた。



   □□□



【魔術複数同時行使】

 魔術を複数同時に使用するには、魔力玉を魔術に変換する前に複数個へ分裂さればいいだけである───と、言葉にすると簡単に聞こえるが、現実はそう甘く無い。魔力玉を複数個にするだけでも強靭な集中力を必要とし、少しでも乱れると全ての魔力玉が消えてしまう。しかも、分裂させるという事は込めた魔力も分裂するのと同義で、魔術へ変換した際、威力低下へとも繋がってしまう。その為、使う者はほとんどおらず、戦闘中に扱える者はかなりの熟練者とされる。



【魔術増強】

 魔術の威力を高めるには、魔力玉を魔術へ変換する前に、魔力玉に込める魔力量を多くすればいい。多量になればなる程 扱いは難しくなるが、魔術へと変換出来た際の威力は絶大なものへとなる。留めの攻撃には欠かせない技術となる。

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