第7話 第三層 待機時間

「はぁっはぁっはぁっはぁっ」


 猛烈に襲ってきた吐き気。異常なまでに襲ってくるそれに耐えながら、俺は辺りを見渡す。


 試練が始まる前にいた部屋に戻ってきていた。


「……一体……どういう原理、なんだよ……」


 正しく瞬間転移。俺はありえない芸当を目の当たりにし、もう諦めにも近いような悪態をつく。

 もう何度も「ありえない」を目にしてきたんだ。少し慣れてきた。


「すぅぅぅっはぁ……………くそっ」


 俺は扉の方を見る。


『試練の塔 第三層 チャレンジ!

 只今、待機時間 残り 85653秒』


「また大層な時間があるようで」


 この待機時間って何を基準に決められているんだろう? よくわらない。


 俺はまた部屋をザッと見渡す。


「そんなに時間があっても困るんだけどな……」


 そう言って俺は歯軋りした。

 さっき覚えた吐き気や罪悪感───これらが消えた訳じゃない。でも、できるだけ考えないようにしたかったから、何か気を紛らわせられる物がないかを探す。


 そして───


「本………」


 紛らわせそうな物を見つけた。


 俺は本棚に近寄っていく。


「………不思議なものだよな。本のタイトルから もう知らない文字なのに、なぜだか日本語が浮かんで見える」


 一冊の本に手を伸ばして、そのタイトルを目にすると、変な形をした文字の羅列が並んでいる。恐らく外国の言葉だろう。

 俺はこんな文字知らない。読めなくても当然な筈───なのに、なぜだか、その文字の横に日本語が浮かんでいるように見える。


「……本当、意味わかんないな」


 俺は諦めが籠った溜め息を吐いてしまった。




「本のタイトルはっと……『魔力の感じ方』?」


 魔力? ゲームとかで言う魔法の源的なあれ? え? 感じ方? 俺は興味を唆られ、少しドキドキしながら本を開いた。


 俺は本の内容に目を通していく。




 本の書いてある内容はこんな感じだった。


・魔力とは精神力と通ずるものがある。目にすることはできない


・魔力とは魔を扱うためのエネルギー源。込めれば込めるほど魔術の威力が上がっていく


・魔力にも得意不得意があり、人によって得意な魔術が存在する。


・魔力とは精神力であると共にエネルギーであり、使いすれば酷い頭痛に襲われる。


・魔力を感じたければ心を落ち着かせること




「………」


 というようなことが難しい言葉で長々と記されていた。

 地球にあるような「魔力とはあるのか無いのか」の検証でなく、「魔力がある」と仮定した上でこの本は書かれている。こういう本は読んだこと無かったから面白い。つい没頭して読んでしまった。


 魔力……魔力かぁ。本当にそんなものがあるなら是非とも感じてみたい。丁度、この本には心の落ち着かせ方や集中方も書いてあるし、ちょっとやってみるか。


 目を閉じ、静かに待つ。

 そこに広がっているのは暗闇の世界。

 しばらくすると、ほんのり一つ、淡い光が見えてくる。

 イメージする───その光が大きくなるように。

 光が強くなっている印象は無いが、暗闇に光が広がった───ような気がする。

 光を眼前からゆっくり下に下ろしていく───イメージ。

 ゆっくり……ゆっくり……下へ。

 胸の辺りまで来たら、光を一気に収縮させる。

 念じる力を強めるように、ひたすら強く、光が小さくなるように。


 そして、目を開く。


「………おぉ……」


 そこには、ほんのり薄く光る青色の玉が浮かんでいた。


「これが……魔力」


 本で書いてあったことと一致する。え? てか、あの本マジだったの?


「すっげぇ……」


 小さな光しか発していない光の玉。それでも、俺には眩い。こんな芸当ができるなんて思ってもみなかったから、とても眩しく見える。


 本には、一度魔力を感じることができれば、体が勝手にコツを掴んで、二度と魔力を扱うのに苦労しないって書いてあったけど……本当かも。何だが、もうこの感覚は忘れられないような気がする。


 もっと……もっと、について触れてみたい。俺は本棚にある他の本も次々と読んでいった。



   □□□



『只今、待機時間 残り 11936秒』


 あれから けっこうな数の本を読んだ気がする。


 読んでいった本は『魔力の扱い方』から初め、『魔力の変換方』『四大資本』『火属性魔術の髄』『水属性魔術の基本』『風属性魔術の特性』『土属性魔術の発展』『陰陽の本』『光属性の極め方』『闇属性の全貌考察』等々───読み終われば次というようにどんどんと読み進めていった。


 読書はやっぱり楽しい。時間なんて忘れて、この本の世界に没頭することができる。これほど素晴らしいものがあるだろうか? いや、無い(過言)。






『本当、気珠無って本好きだよねぇ』


「………」






 ………あっ、そういえば……俺、ここに来てから何も食ってないや。水はちょこちょこ飲んでるけど、食べ物は一切口に付けてない。

 何か口に入れた方がいいかな……いや、そんな時間すら惜しい。

 もうちょっと……もうちょっとだけ読んだら……。


 俺はそのまま読み進めていく。

 もし、ここで、食事を取ることを選んでいれば───ここで、動くことを選択していれば、もっと違う結末もあったかもしれない。


 結局俺は、この後、読むのに疲れて眠ってしまったのであった。



   □□□



【四大資本(属性)】

 魔力から変換する際に、比較的簡単に変えられると言われる属性。一般的に火・水・風・土がそれと言われる。


【火属性魔術】

 魔力の玉の中心からエネルギーを爆発させるイメージの元、生み出せる魔術。名の通り火を操る魔術である。魔力を込めれば込めるほど火力が大きくなる───一番火力の出しやすい属性。しかし、形が不定であるため、四大属性の中では比較的扱いが難しい属性でもある。扱いが上手くなれば、火を自在に操れるようになり、爆発のように一瞬で火を生み出すことも可能になる。


【水属性魔術】

 魔力の玉から力が滴り落ちるイメージの元、生み出せる魔術である。形が不定であるため、四大属性の中で一番自由な属性であると共に、一番扱いが難しい属性でもある。扱いが上手くなれば氷を生み出したり、しっかりとした形を持たせることも可能になる。


【風属性魔術】

 魔力の玉を内から解放するイメージの元、生み出せる魔術である。形は不定であるが、風を吹かせるのが強い意味合いの魔術であるため、比較的扱い易い属性である。扱いが上手くなれば風で物を斬ることや、空気中の元素までをも自由に動かすことが可能になる。


【土属性魔術】

 魔力の玉をボロボロと崩し、別のものへと変えるというイメージの元、生み出せる魔術。四大の中で唯一の固形ということで一番扱い易い魔術であると同時に、魔術行使して扱う体積によって必要魔力量が変わるため、一番魔力を消費しやすい魔術である。扱いが上手くなると、鉱石を生み出すことが可能になり、土を操れる範囲が増す。


【光属性魔術】

 四大属性の後に発見された魔術。魔力の玉をさらに強く発光させるイメージの元、生み出せる魔術。名の通り光を操ったり生み出したりできる魔術。既存の属性の中では一番強力であり、そのため、扱いも一番難しい。扱いが上手くなると雷を行使できるようになったり、光そのものに体を変質させることも可能になる。


【闇属性魔術】

 四大属性の後に発見された魔術。魔力の玉の光を奪うイメージの元、生み出せる魔術。既存魔術の中ではかなり異質なため、扱いが光属性魔術の次に難しい。主に身体に作用する魔術で、対象の五感に異常を発生させたり、逆に強くしたり、癒すこともできる。扱いが上手くなると、相手の視界を完全に奪ったり、死者の蘇生も可能になる。

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