第2話 第一層 待機時間
「───はっ」
俺は今日二度目の目覚めを経験する。
「ここは……?」
だが、目覚めた場所は見知らぬ部屋。形容するなら……映画とかでよく見る、古代の闘技場にある控え室って感じだ。
古風のレンガ造りな この部屋だが、置いてあるのは現代な物ばかり。木製のドア・本が多数収納されている本棚・ベッド・冷蔵庫・天井に取り付けられている、電気で動いているだろう灯り、どれも見慣れている物ばかり。木製の物はどれも漆が塗り込まれているような感じがある。
何で俺はこんな所にいるんだっけ……? 確か、朝起きた後、急に目の前に見知らぬ男が現れて……。
ダメだ、何か喋ったような記憶は残っているものの、何を喋ったのかはまるで覚えていない。
ここは一体どこで、何が起きているんだ?
俺はとりあえず出ようとドアの元へ歩く。
そして、その取っ手に触れて、
ガチャン
「………」
開かない。
え? は? マジかよ!? 閉じ込められてるの!? 本当にどんな状況なんだよこれ!?
俺は混乱した頭から何度も体に指令を送る。
ガチャンガチャンガチャンガチャンガチャン───
ダメだ………何度やっても開かない。
「っ………」
俺は頭を抱えて その場に腰を下ろしてしまう。何でこんなことに……?
不意に顔を上げる。
「───!」
そうして たまたま───本当にたまたま、ドアの上部にゲームで出てくるようなメッセージウィンドウが浮かんでいるのを見つけた。
『試練の塔 第一層 チャレンジ!
只今、待機時間 残り 512秒』
「………」
え? 何これ? どう反応すればいいの? 試練の塔って何? 第一層? 待機時間? 五百十秒ってことは……約八分? 何? 何か起きんの?
閉じ込められていたことを実感して少し参っていた頭が余計混乱する。
俺は視線を下に移していき。
『※武器を持っておくことを推奨します』
さらにそう表示されていた。
「………武器?」
俺は部屋を見渡してみる。武器になりそうなものなんて───
けっこう横幅を取っている本棚の真横、本当に部屋の隅っこの方に、傘立てのような筒に入った数種類の武器を見つけた。
「あった……」
最初に辺りを確認した時には発見できなかったから驚き、俺は立ち上がってそこへ移動する。
「………」
見るからにレプリカとは違う質感。これ、本物?
俺は目に入った剣の柄を握ってみる。
………そういえば、本物の剣は金属で できてるから重いって聞くよな。持ち上がるかな?
とりあえず、持ち上がるか試そうと力を入れて。
「───うおっ!?」
あっさりと持ち上がった。
驚くほど軽い。下手したらレプリカよりも軽いんじゃないか? 軽すぎて変な声が出てしまった。
剣をよく観察してみる。
柄───持ち手の部分には持ちやすいように布が巻き付けてあるが、柄頭の部分が鉄だから、布の下も鉄なんだろう。鍔は色付きの石……なのか? 木の色に似た焦げ茶色をしている。
木の鞘から刀身を取り出してみる。
刀身は驚くほど綺麗で目を見張った。汚れ一つ無い銀色で、刃こぼれも見当たらない。
「………凄いなぁ」
思わず、そんな言葉が出てしまった。それぐらい凄い。
剣なんて振ったこと無いけど、この軽さなら俺でも扱えるだろう。とりあえず、これを持っておくか。
「………ん?」
そうやって刀身を鞘に仕舞ったところで、筒の底の方で何かが光っているのに気付いた。───光っているというか、部屋の明かりを反射しているから光っているように見えただけか。
俺は筒の底に手を突っ込んでみる。
そしたら手に何かが触れたので、それを掴んで取り出してみた。
「おぉ……!」
それは、煌びやかな装飾が施された鉄の鞘に入っているナイフだった。
鞘には薔薇の茨を連想させるような装飾が何本も入っており、ナイフの柄頭には紅の宝石が施されている。しかも、これも異様に軽い。
「材料は一体何で できているんだ?」
何かに使えるかもと思った俺は、それを、下に履いているジーンズに巻き付けているベルトで挟むように装着した。
俺は振り返ると、もう一度ドアの近くまで行く。
『残り 112秒』
もう二分を切ってる……。
何が起きるかわからない この状況だからか、心臓の脈打ってる音が聞こえてくる。心做しか、いつもより速い気がしないでもない。
「スゥーハァ……」
一度深呼吸。しかし、心臓の鼓動が落ち着く様子は無い。
残り二分……いや、もう一分三十秒ぐらいか? えらく長く感じる。
早く経ってくれという気持ちと、経つなという気持ちがせめぎ合っている。酷く気持ち悪い。
自分に何が起こっているのかわからない以上、この『待機時間』だけが手掛かりなのだが、妙に嫌な予感がある。これが『0』になった瞬間、恐ろしい何かが襲ってくるのではないか? そんな不安が絶えない。
それでも、他にやれることが無い以上、待つしかない。
不安を隠すように剣の鞘を強く握る。
そして───
『残り 0秒』
俺の視界は真っ白に埋め尽くされた。
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