第60話 決断
カズマとドグマはサンライト城に戻ると再びコンピュータールームへ戻った。。
暗殺者の死体は衛兵達が運び出したが、床に血の跡が残っていた。
寝室へ入るとマリとマナがトライを看病していた。
ベッドに近づいてカズマは驚いた。
トライの髭と髪がキレイに切られていた。
カズマはまるで幽体離脱をして自分の寝姿を見ている気分に襲われた。
ドグマ:「こりゃ驚いた・・・」
ドグマも目を丸くしている。
マリ:「その・・・ちょっとしたイタズラをしようと思ったんだ・・・」
マナ:「すすすすいません・・・髭と髪を切ったらカズマ様みたいになるかと思いまして・・・」
マリ:「トライとカズマを見比べて笑おうと思ったらそっくりすぎて笑えない・・・」
ベッドの上に寝ているのは瞼の傷をのぞけばカズマそのものだった。
カズマ:「カッカッカッ・・・そういうのは嫌いじゃないぜ。」
カズマは嬉しそうに笑ってマリとマナの頭をなでた。
カズマの笑い声に反応してトライが目を覚ました。
カズマ:「おはよう!兄弟!」
トライはカズマのひやかしを無視して上半身を起こす。
起き上がる時に少し苦痛に顔を歪める。
マナ:「あああ、まだ無理して起きないように。」
マリ:「そうだ・・・無理をするな。」
マリの声にトライがピクッと反応する。
トライ:「マ・・・リ・・・」
トライは少年のような目でマリを見つめた。
あまりにも無垢な瞳にマリは目を奪いわれた。
二人の間に甘い空気が漂い顔が近づいていく。
カズマ:「はい!そこまで~。」
そう言うとカズマはマリを後ろから持ち上げトライから遠ざける。
ドグマ:「なんだ?オマエ嫉妬してるのか?」
ドグマが二やついているのがむかついてカズマはドグマの腹に裏拳を叩き込む。
オフッ!と声をあげてドグマがうずくまる。
カズマがトライの前に顔を近づけ睨みつける。
トライは怯えたように俯いた。
マリがカズマの頭を後ろから思い切り殴る。
マリ:「コラ!いじめるなカズマ!」
カズマ:「いってぇな・・・本気で殴るなよ・・・」
マリはカズマを横に押しのけるとトライに優しい言葉をかけた。
マリ:「すまないな。コイツはバカだから気にするな。」
トライ:「ご・・・ごめん・・・カズ・・・マ?」
ふてくされて床に座り込んでいたカズマはトライが自分に謝ったのに驚いた。
カズマ:「ごめん?なにに対してごめんなんだ?」
トライ:「体当たりで突き飛ばしてごめん。」
マリ:「大丈夫だトライ。アイツはバカだからあのくらいがちょうどいい。」
カズマ:「バカバカうっさい!いいんだよトライ。それよりいくつか聞きたい事がある。」
トライ:「何?」
カズマ:「オマエマリちゃんの事覚えているのか?」
トライは一瞬きょとんとした顔をして答えた。
トライ:「僕はマリの事が大好きだ。忘れた事は一度もない。」
トライの言葉にカズマとマリの顔が真っ赤になる。
ドグマ:「ガッハッハ!熱いぜ~!グォッ・・・」
ひやかすドグマに二人は裏拳を叩き込む。
ポリポリと頭をかきながらカズマは質問を続けた。
カズマ:「で?これからオマエはどうするんだ?」
トライ:「僕はマリを守りたい・・・」
カズマ:「マリを守るってことはBシェルターの連中や父さんとも戦う事になるってことだがいいのか?」
トライ:「父さんにマリを傷つけないようにお願いする。」
カズマはハーと深いため息をついてマリの顔を見た。
カズマ:「どうする?王女。」
マリも眉間にしわをよせ、険しい顔をしている。
トライ自身はマリに危害を加える事はよほどないと予想できた。
しかしBシェルターの連中はトライを利用してこちらのペースを乱してくるだろう。
実際トライの身に着けていた鎧には盗聴器が仕掛けられていたのをカズマが発見して破壊していた。
カズマと似た容姿をしていれば危害を加えにくいということも考えているだろう。
ここでトライの希望通り解放しても何も進展しないことは明白だった。
それでも情がわいている今、粗末な扱いもできなくなっていた。
ドグマ:「ここに監禁するんじゃないのか?」
トライの扱いをマリに委ねようとしていたカズマはドグマの一言を一蹴する。
カズマ:「それは俺達の希望だオッサン。今は王女の意見を聞いているんだ。」
マリはなおも険しい顔で黙っている。
部屋の中がシーンと静まり返る中トライが困惑した表情で皆の顔を見る。
マリ:「カズマ・・・ちょっと来てくれ・・・」
ようやくマリは口を開いた。
カズマとマリは寝室を出てコンピュータールームに入った。
カズマ:「さあ・・・どうする?」
マリ:「アイツは・・・トライは・・・助からないのか?」
少しの沈黙の後カズマは冷静に言った。
カズマ:「ああ・・・あいつはほっといてもじきに死ぬ・・・」
苦渋の表情でマリはカズマに背を向けた。
マリ:「アイツを今すぐ楽にしてあげてくれ・・・」
マリは絞り出す様な声でカズマにお願いした。
おそらくマリならばそう言うだろうとカズマは予想していた。
不治の病で父を失っていたマリ。
ジワリジワリと死にゆく父に対して何もできなかった無力感。
それを二度も味わうのは耐えられないのだろう。
カズマはマリの肩が震えているのに気付いた。
マリが泣いている・・・
カズマ:「わかった・・・苦しまずに死ねる薬を用意するよ・・・」
そう言うとカズマは一人寝室へ戻った。
マリは自分の部屋に戻りベッドに伏して泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます