第57話 虎穴に入らずんば

カズマとマリとマナが地下に籠って一週間がたつ頃、城門に一人の男が近づいてきた。


男は両手をあげ、敵意のない事を示したが、衛兵達は男をその場にとどめ、直ちにドグマへ連絡した。


知らせを聞いたドグマは急いで城門に駆けつけ、城門の前で両手を頭の上で組んでひざまづいている男を見た。


その男はスイートウォーター城での和平交渉に現れた鎧兜の男だった。


ドグマはワイヤレスマイクでカズマ達に連絡をする。




ドグマ:「こちらドグマだ。あの鎧兜の男が城門に来ている。」


カズマ:「本当か?俺たちもそっちに行く。」


ドグマ:「いや、なんか敵意はないようで投降してきたようだ。ひっ捕らえてそっちに連れて行く。」


カズマ:「そうか・・・できるだけガチガチに拘束しておいてくれ。力はモンスター並みにあるはずだ。」


ドグマ:「了解だ!」




ドグマとの通信を終えてカズマは考えていた。




『何が目的だ・・・?』




マナも同じように何か考え込んでいる。




カズマ:「どう見る?」


マナ:「暗殺の為にこちらを攪乱する・・・」


カズマ:「だな・・・」


マナ:「カズマ様、鎧兜の男をここに連れてくるのは危険です!何を仕掛けてくるかわかりません!」




マナはやや強い口調でカズマに進言した。


普段穏やかなマナの剣幕にカズマは少し驚いた。




カズマ:「そうだな・・・だが虎穴に入らずんば虎子を得ず。あえて罠にのってみよう。」


マナ:「本気ですか!?」


カズマ:「ああ。暗殺に来たところを返り討ちにするチャンスだ。フォロー頼む。」




マナはポカンとした表情でカズマを眺めている。


マリがマナの肩に手を置く。




マリ:「ああいう男だ・・・身勝手でワガママ・・・だが戦略はピカイチだ。信じよう。」


マナ:「わかりました・・・マリ様とカズマ様は私が守ります。」




しばらくしてドグマが鎧兜の男をコンピュータールームへ連れてきた。


上階と地下にあるエレベーター出入口に二人ずつ守衛を配備し、残りの守衛をコンピュータールームの出入り口前に待機させる。


鎧兜の男は手を後ろに組まされて鎖でガッチリ拘束されていた。


テーブル席にはカズマが座っていてその向かいの椅子に鎧兜の男を座らせた。


しばし見つめるカズマ。




カズマ:「オッサン、兜を取ってくれ。」




ドグマはカズマに促されて男の兜を外す。


鎧兜の男は髪はボサボサで髭をはやし、左目の瞼に大きな傷があった。


それ以外はやや年を取っているがカズマと瓜二つだった。




カズマ:「やっぱりな・・・」


ドグマ:「そっくりだが・・・目に力がない。魂が抜けているような感じだ。」




ドグマの言葉を聞いてカズマは鎧兜の男の目をのぞき込んだ。


確かに目が死んでいて、視点が定まっていない。


カズマは鎧兜の男に質問をする。




カズマ:「お前の名前は?」


鎧兜の男:「ト・・・ラ・・・イ」




うめくように男は自分をトライと名乗った。




カズマ:「トライか・・・俺はカズマだ。よろしく。」


トライ:「・・・」


カズマ:「ここに何をしに来た?」


トライ:「父さんが・・・ここで・・・捕まってこいと・・・」




カズマとドグマは顔を見合わせる。




カズマ:「父さんって誰だ?アレクか?」


トライ:「父さんは・・・こうめい・・・」


カズマ:「こうめい?知ってるか?オッサン。」


ドグマ:「いや・・・こうめい?何者だ?」




カズマはトライを見つめて質問を続ける。




カズマ:「で?父さんは捕まった後何をしろと言った?」


トライ:「そのまま・・・待ってろと・・・」


カズマ:「待つ?何をだ?」


トライ:「すぐに・・・仲間が・・・来るから・・・」




トライの言葉にカズマとドグマは凍り付いた。

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