第58話 狂暴な男
その時トライの鎧の隙間から黒い霧のようなものが吹き出した。
その霧は腕の形に変わりその手には注射器を持っている。
注射器がトライに打ち込まれるとトライは雄たけびをあげて立ち上がった。
ドグマ:「カズマ!やばい!」
ドグマとカズマはすばやくトライから離れて臨戦態勢をとる。
トライの雄たけびを聞いて衛兵達がコンピュータールームへ入ってくる。
トライは自分を拘束している鎖を引きちぎろうと力を込めている。
黒い霧はトライから離れて人の形に変わっていった。
カズマ:「チッ・・・もう一人いたのか。」
カズマは黒い霧に向かってHighpressuregunを構える。
衛兵達6人がトライを押さえつけようと両脇から抱きかかえる。
しかしトライは鎖を引きちぎり、6人を勢いよく投げ飛ばした。
投げ飛ばされた一人がカズマにぶつかる。
ドカッ・・・
衛兵がぶつかった勢いでHighpressuregunを落とすカズマ。
ドグマ:「コイツ化物か!」
ドグマがトライを止めるべく剣を振り下ろす。
トライはドグマの腕を受け止め、ドグマの腹に拳を叩きつけた。
ドグマ:「グォッ!」
低いうめき声とともにドグマは後ろに吹っ飛んだ。
トライ:「ガァァァァァ!」
よだれを垂れ流しながら野獣のように吠えるトライ。
衛兵の一人がトライを抑えようと背後から掴みかかる。
トライは衛兵の首を押さえつけ勢いよくひねる。
ゴキッと音がして衛兵の首の骨がくだかれた。
トライはカズマの方へ向き直り襲い掛かる。
カズマはトライの突進を寸前でかわし、Highpressuregunを拾う。
トライの背中に照準を合わせて引き金をひこうとした瞬間、ダガーナイフがHighpressuregunに突き刺さる。
バチバチと音をたててHighpressuregunが壊れる。
黒い霧から数本のダガーナイフがカズマに向かって投げられる。
カズマはスッスッとナイフをかわすが・・・
ゴォッ!とトライがカズマに突進してカズマを吹き飛ばす。
カズマが倒れている所に黒い霧が小刀を持って接近していく。
ギューンと音がした後小刀を持った黒い霧の腕が吹き飛ぶ。
黒い霧は腕から血しぶきをあげて苦しんでいる。
マナ:「カズマ様!大丈夫ですか?」
マナとマリがコンピュータールームの奥から出てきて、マナはHighpressuregunを構えていた。
黒い霧の腕を吹き飛ばしたのはマナだった。
黒い霧は目を真っ赤に光らせてマナとマリに向き直った。
黒い霧はもう一つ小刀を取り出してマナとマリに向かっていった。
マナはギューンギューンとHighpressuregunをうつが黒い霧はスッスッと交わしてマナを突き飛ばす。
刀を構えて黒い霧に対峙するマリ。
黒い霧は徐々に実体化してマリに近づく。
暗殺者が刀を振り下ろそうとしたその時、トライが暗殺者に襲い掛かった。
暗殺者に横から飛び掛かり、頭に拳を打ち付ける。
トライが何度も何度も拳を打ち付けると暗殺者はケイレンを起こしていたがやがて動かなくなった。
トライはマリの方を向き、近寄っていく。
カズマ;「逃げろ!マリ!」
カズマは痛みに顔を歪めながら叫んだ。
だがマリは剣を構えて硬直している。
トライは息を荒くしてマリに近づく。
トライの顔がマリの顔に近づいても動かないマリ。
マリの腕から刀が落ちる。
カズマ:「マリ!」
もうだめだ!そう思ってカズマが叫んだ時。
トライ:「マ・・・リ・・・?」
トライがマリの胸に顔をうずめてマリを抱きしめた。
トライ:「ウウ・・ウ・・・」
トライはマリを抱きしめて子供のように泣いていた。
戸惑うようにトライの頭をなでるマリ。
マリは困惑した表情でカズマを見つめた。
なぜかはわからないがマリには危害を加える気はないようだ。
暗殺者からマリを守った事からもそれがわかった。
やれやれとカズマは立ち上がり暗殺者の遺体に近づいた。
フードをかぶっている上にトライに頭を粉々にされているため、もはや何者かもわからなかった。
懐を調べるとカズマとマリの写真が出てくる。
『これは・・・』
暗殺者はメダルを持っていた。
ドグマもよろよろと立ち上がり、首を折られた衛兵の一人の様子を確認する。
カズマがドグマを見るとドグマは首を振る。
カズマはドグマに近づき、メダルを見せた。
カズマ:「これは何かわかるか?オッサン。」
ドグマ:「そいつはBシェルター盗賊ギルドの通貨だな。」
カズマ:「盗賊ギルド?」
ドグマ:「Bシェルターでも最下層の身分の盗賊達のコミュニティーだ。」
カズマ:「盗賊か・・・妙なスキルを使うはずだぜ・・・」
ドグマ:「それよりアイツをどうする?オマエの弟?アニキ?」
カズマはムッとしてドグマの腹をどついた。
ドグマがオフッ!と身体を折り曲げる。
ドグマ:「オマエ・・・さっきやられたところを・・・」
カズマ:「兄弟じゃねぇよ・・・」
マリ:「カズマ!ドグマ!ちょっと手伝ってくれ!」
トライは泣き疲れてマリにうずくまって眠りに落ちていた。
トライを寝室に連れて行こうともがいているマリをカズマとドグマが手助けする。
マナがようやく立ち上がり、マリに近づく。
マナ:「マリ様ご無事ですか?」
マリ:「ああ、マナ大丈夫だ。」
カズマ:「マナ先生、ナイスフォローです。助かったよ。」
ようやくトライをカズマの寝室に運びベッドに乗せる。
眠っているトライの上にマナは両手をかざす。
ボゥッ・・・とトライの体が赤い光を帯びる。
マナ:「これは・・・」
マナの顔が険しくなった。
マナが手を降ろすとトライの体を覆う光が消えていく。
カズマ:「コイツは今どんな状態だ?」
マナは一瞬言いよどんだが冷静な口調でカズマに告げる。
マナ:「異常な興奮状態で、全身が炎のようなオーラで覆われています。」
カズマ:「モンスターのエキスをぶちこまれたんだとよ。」
マナ:「過剰なドーピングにより内臓はボロボロです・・・相当な激痛のはずです・・・」
マリ:「治療はできないのか?」
マナは悲しそうに首を横に振った。
マナ:「もう手の施しようがないですね。いつ死んでもおかしくない状態です。」
トライの寝顔は子供のようにあどけない表情をしている。
マナの診断が疑わしくなるほど穏やかな様子だった。
マリはトライの顔をジーっと見つめ微笑んだ。
マリ:「カズマと瓜二つだな・・・」
カズマ:「まあ俺のクローンだからな。」
ドグマ:「コイツはどうする?」
カズマ:「王女の側に置いてくれ・・・」
カズマの意外な発言にドグマ、マリ、マナは驚いた。
マナ:「なぜ王女の側に?」
カズマ:「さっきの様子見ただろ?コイツは王女を守って仲間を倒した。」
ドグマ:「オマエそれだけでマリ様の側にやつを置くのか?正気か?」
カズマ:「おそらくこいつの記憶にはマリちゃんの事が残っている。」
マリ:「なぜそんな事が・・・」
言いかけてマリは気づいた。
カズマ:「こいつはそれだけマリちゃんの事を愛しているってことだ・・・」
寂しそうに呟くカズマ。
さすがに誰も何も言えなくなった。
マリ:「わかった・・・マナ、トライの着替えを持ってきてくれ。」
マナ:「ははいいい、わっかりました。」
カズマ:「いや、この部屋にある俺の服を使ってくれ。」
そう言うとカズマはドグマの方を向いた。
カズマ:「オッサン、俺はまた上の部屋にもどるが王女とマナとトライはここで生活してもらう。」
ドグマ:「暗殺の恐れはなくなったと?」
カズマ:「まぁマナ先生に聞いてみろよ。同じ判断をくれるよ。」
マナ:「そそそそうですね。恐らくしばらくは大丈夫です・・・」
カズマ:「念のため結界は張っておいてくれ。」
カズマとドグマが寝室を出てコンピュータールームへ向かうと衛兵達がドグマとカズマを遮って訴えた。
衛兵:「ドグマ様!アイツを殺してください!」
衛兵B:「そうです!あいつは仲間を殺しています!仕返ししないと気が済まない!」
ドグマ:「オマエらの気持ちもわかるがアイツは・・・」
ドグマがトライを庇う発言をしかけたのをカズマが止める。
カズマ:「わかった・・・アイツの処刑は一週間後行う。」
ドグマ:「カズマ!オマエ・・・」
カズマ:「今あいつはマナが強力な結界で閉じ込めている。マナの結界ならアイツも破れないだろう。」
カズマは横たわったままの衛兵の遺体に近づいた。
カズマ:「まずは王女や俺を守ってくれた勇敢な兵士を丁重に弔おう、ドグマ」
そう言うとカズマは衛兵を抱え上げてエレベーターへ向かった。
それを見て衛兵達は皆泣き出した。
『厄介な事になっちまったな・・・』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます