第53話 二人で籠ってやる事は一つ

シューティングスター城の天守でアレクはサンライト城の方角を見つめていた。


アレクの後ろから孔明が近づく。


アレクは孔明の気配を感じ振り向かずに話し出した。




アレク:「孔明、リザードマンの軍勢は何匹送った?」




孔明はしばらく沈黙していた。




孔明:「50匹です・・・」


アレク:「ワシは100匹送れと命じたはずだが?」


孔明:「申し訳ありません。100匹全滅の恐れを回避する為偵察に必要な部隊に変更しました。」




アレクは振り向くと孔明の目の前に刀を突きつけた。




アレク:「ワシの判断が誤りだと言いたいのか?」




アレクの言葉に殺気が混じっている。


迂闊な事を言えばその場で孔明は切り捨てられる。


その時サンライト城での戦闘を撮影していたエルフの女が戻った。




エルフ:「只今戻りました。孔明様。戦闘は全て記録してまいりました。我が軍は全滅です。」




その言葉を聞くとアレクは刀をおさめた。




アレク:「命拾いしたな孔明。だがワシの命令は絶対だ。次はないと思え。」


孔明:「畏まりました。」


アレク:「さて・・・次はどうする?」


孔明:「エルフの女に映像を撮らせてきました。それを分析してから策をたてます。」


アレク:「早急に態勢を調えよ。」




孔明は一礼するとエルフの女を連れて天守を後にする。




孔明:「映像を見るからついて来い。」




孔明はそう言うとシューティングスター城のコンピュータールームへ向かった。


シューティングスター城のコンピュータールームは天守のすぐ下の階に設置されている。


孔明は電子扉のパスワードを打ち込み入場してエルフの女から映像を受け取る。


映像を再生するとリザードマンが次々と凍り付き破裂していく様が映し出された。


魔法のような攻撃にリザードマン達は成す術がない。




孔明:「これは飛び道具か?厄介だな・・・」




うろたえるリザードマンの軍勢に一人の男が向かってきた。




孔明:「この男は・・・」




孔明はその男の映像を一時停止して拡大した。




『驚いたな・・・あのクローンのマスターか?』




孔明はカズマの戦闘能力を推し量る。




『身体能力はクローンと同じくらいだな・・・だが拳に何か特別な仕掛けがあるな。


鎧も奇妙な物を装備している。コイツが作ったものか。


効率的な武器を使ってモンスターとの身体能力の差を埋めているということか。』




カズマの映像を何度も繰り返し再生しているうちに孔明は気づいた。




『そうか・・・伝説の勇者はコイツか・・・


だとするとクローンを利用すればサンライト城を混乱させる事ができる。』






会議の後、シュウは身支度をして早速シューティングスター城へ向かった。


一方サンライト城ではカズマとマリの警護を強化すべく王城の衛兵10人が『開かずの間』へ向かうエレベーターの前に集合していた。


ドグマは彼らに不審な者を決して通さないように厳命し、交代で警護するように体制を調えた。


カズマとマリは10名の衛兵達と対面して一人一人と握手を交わし、彼らの名前と顔を覚えさせられた。




ドグマ曰く「守る者も守られる者もお互いを確実に知っておくべき」ということらしかったが、カズマもマリも内心辟易としていた。


とはいえ自分達の状況を考えれば無下にするわけにもいかなかった。


もし敵に暗殺される恐れがある者を守る場合、自分達もそうするであろうと思うからだ。


こういう場合は守る側がやりやすい様にするのが最善と心得ていた。


カズマとマリはエレベーターに乗り込み衛兵達に警護を頼むと声をかけた。


衛兵達は全員敬礼をして二人を見送ってくれた。


ドグマの気分を乗せる為に二人も敬礼をするという大げさな演出をしてみせた。


エレベーターの扉が閉まるとカズマとマリはこらえきれずに笑い出した。


ふと目が合うと二人は照れくさそうにすぐに目をそらした。


気まずい沈黙の後エレベーターが到着し、二人はコンピュータールームへ向かう。


カズマが沈黙を破るように口を開いた。




カズマ:「すまないな王女」


マリ:「なぜ謝る?」




マリが尋ねるとカズマは振り向きマリを抱きしめた。


マリはあわててカズマを引き離そうとする。




マリ:「カズマ!離せ!」


カズマ:「断る。自力でなんとかしろ。俺はガマンの限界だ。」




カズマが強く抱きしめているので、マリは手足をもがいても引き離す事ができずに抵抗することをやめた。


マリは自分の肩に顔をうずめて抱きつくカズマの頭をなでた。




マリ:「勝手な奴だな・・・ガマンしているのはお前だけではないんだぞ?」


カズマ:「だからさっき謝ったんじゃないか。もう少しこのままでいてくれ。」




懇願するカズマの頭を軽くペチペチと叩きながらマリはカズマをたしなめる。




マリ:「はいカズマちゃん時間でちゅよ~おいたしちゃだめでちょ~?」


カズマ:「なかなか萎えさせるのうまいな・・・」




カズマはマリの腰のあたりを抱えて持ち上げた。




マリ:「コラ!カズマ!離せ!」




マリは再び手足をバタつかせるがカズマはびくともせずにコンピュータールームの奥に進んでいった。


寝室へ着くとカズマはマリをベッドの上に放り投げ、マリの両手をつかみ顔を近づける。


マリはカズマの股間に膝を打ち付けた。


グニョッ!と鈍い音をたてた後カズマの腰が宙に浮く。




カズマ:「オッ!・・・」




カズマは短い叫びをあげ、股間を押さえて悶絶している。


マリは悶絶しているカズマを蹴とばしてベッドから床へ突き落した。


なおもうずくまっているカズマを冷ややかに見つめているマリ。




マリ:「おいたがすぎるとおしおきでちゅよ~勇者様~」


カズマ:「ありがとうございました王女様・・・ってなんのプレイだよ・・・」




カズマは腰をトントンと叩きながらヨロヨロと立ち上がる。


その様子をマリは微笑みながら見ている。




マリ:「猛獣と一緒に織の中にいる気分だ。頼むから自重してくれ。」


カズマ:「あのねぇ、好きな女と二人っきりでガマンできるほど俺はまだ枯れてないんですよ。わかる?」


マリ:「男の生理現象というやつか・・・それを抑えるいい方法があるぞ?知りたいか?」


カズマ:「ほう・・・是非教えていただきたいね。」


マリ:「昔私の従者となる男達に父上が施した処置なのだが・・・」


カズマ:「おい、それってひょっとして・・・」


マリ:「睾丸を二つとも取り除くのだ。その為の器具も残っている。」


カズマ:「とんでもねぇ!却下だ却下!」




カズマのうろたえる姿を見てマリは大笑いした。


笑いながらコンピュータールームへ戻るとマナが現れた。




マナ:「カズマ様、マリ様、食事をお持ちしました。」


カズマ:「遅いよマナ様・・・おかげでこっちはえらい目にあったよ・・・」


マナ:「え?何があったんですか?」


マリ:「大丈夫だマナ。私がうまく処理したから。それより食事にしよう。」




マナは首をかしげながらテーブルの上に三人分の食事を用意した。




マリ:「そういえばメイはどうしている?」


カズマ:「あ!アイツの事を忘れてた。」


マナ:「メイさんはちょっと寂しそうでしたね。」


マリ:「メイがいても問題はないから連れてきてくれ。」


カズマ:「そうだな。ちょっと呼んでみるか。」




カズマがワイヤレスマイクでメイを呼ぼうとするとマナはあわててそれを止めた。




マナ:「ああああの、メイさんは自分は大丈夫だと言っていました。」


カズマ:「マジで?あの甘えん坊が?」


マリ:「オマエも人の事言えないだろうが・・・」




カズマは睨みつけるがマリは知らん顔をしている。




マナ:「ん~なんて言ってたっけ?確か・・・」




マナはしばし考えている。




マナ:「久々に合体するんだから邪魔したくない・・・だったかな?」




マナの生々しい表現にカズマとマリは顔を真っ赤にさせた。




カズマ:「マセガキ・・・」


マリ:「・・・」


マナ:「ごごごごめんなさい。余計な事いいました?」


カズマ:「いや・・・いいんだメシにしよう。」




そう言うと三人は食事をはじめた。


顔を真っ赤にして食事をするカズマとマリを伺うようにマナはパンを一口ほおばった。




カズマ:「マナ先生、俺たちはどのくらいここに籠っていればいいですかね?」


マナ:「そうですねぇ・・・シュウ様が偵察からもどってシューティングスター城攻略の準備が整うまで・・・」


カズマ:「最低一週間ってとこか?」


マナ:「はい、砦の組み立て訓練次第ですね。」


カズマ:「あと二時間程でパーツは完成するから明日から取り掛かってくれ。人選は任せる。」


マナ:「わかりました。食事が終わったらドグマ隊長も呼んで打ち合わせをしましょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る