第4話 禁断の扉

『開かずの間』という名前から牢獄のような場所をイメージしていた。


しかし目の前に現れたのは全く別の物。


まばゆい光に照らされた電子扉だった。




『電気があるのか。なんなんだこの時代の統一感のなさは・・・』




カズマは電子扉に近づくとそこについているモニターにふれた。




『タッチパネル・・・』




モニター画面が光り、文字が現れる。




マナ:「この文字は我々が使っているものとは違いますね。おそらく旧時代の文字だと思われます。」




マナの言葉にカズマは凍り付いた。


そこに現れた文字はカズマがよく知っている文字。


アルファベットだった。




『ID:       


 PASS:      』




モニターにはIDとパスワードを入力する画面と入力用のキーボート画面があらわれている。




マナ:「この扉についても予言で書かれていますね。でも同じく旧世界の文字なので・・・」


カズマ:「ちょっとそれ見せてくれ」




マナは『予言の書』を取り出し、『開かずの間』のページを開いてカズマに見せた。


カズマはまた激しい衝撃をうける。




『ID:kazuma69


 PASS:----------』




パスワードの部分は汚損していて読めなかったが、IDはカズマがいつも使用しているものだった。




『そうか・・・そういうことか・・・』




マナ:「大丈夫ですか?勇者様。顔が真っ青ですよ・・・」




マナは恐る恐るカズマの様子を伺っている。


カズマは深呼吸をしてからゆっくりとモニターにパスワードを打ち込んだ。


タッチパネルの「enter」を押すと画面に「welcom kazuma」と文字が出てきた。


電子扉が開くと中には科学技術の粋を集めたコンピューターがあった。


カズマがコンピューターに近づくと音声が部屋の中で響いた。




コンピューター:「おかえりなさいカズマ様」




カズマはあきらめたようにコンピューターに聞く。




カズマ:「オイ、今は何年だ?」


コンピューター:「2200年8月16日です。」




ハァーとカズマは深くため息をついた。




『やっぱりそうか・・・だとするとここは』




カズマ:「ここはシェルターだな?核戦争で世界はどうなった?」


コンピューター:「ここは地下シェルターの最下層です。2034年6月6日にアメリカ、ロシア、中国、フランス、インドの核保有国はお互いに核ミサイルを発射しました。はじめ中国は優勢でしたが、クーデターにより内部崩壊し、核の報復を受けました。五か国が使用した核兵器により世界全体に『核の冬』が訪れ、地上に太陽が現れる事はなくなりました。日本ではカズマ様が設置したシェルターが10施設あり、かろうじて『核の冬』を逃れる事ができました。シェルターはひとつの施設に1000人収容で最終的に生き延びた人類は約1万人でした。


地上ではカズマ様があらかじめ用意していた除染装置が世界中を除染して、2058年3月25日にようやく全ての放射能が取り除かれました。


安全を確認した人類は地上に戻りましたが、そこはもはや以前のように暮らせる空間ではありませんでした。


かつての文明は失われシェルターに避難した人類、動物、植物、微生物以外の生命体は全て絶滅しました。


残された人類は地球を再生するべく地上を開拓し始めました。


しかし、資源は限られており、以前のような文明を復活させるのは困難を極めました。


10棟のシェルターはそれぞれのコミュニティを形成していましたが、シェルターにも貧富の差が現れてきました。


各シェルターでは食料や武器を作成する資源作成プラントを保有していましたが、地球の再生をあきらめたコミュニティは他のコミュニティを襲うようになったのです。」




『やべぇな・・・『核の冬』は読めたがその先も争うのは考えなかったな。』




カズマ:「なぜ俺をここに呼んだ?」


コンピューター:「2199年11月にBシェルターで、DNA操作が行われました。


この遺伝子操作により、神話やファンタジーで描かれたモンスターが作成され、軍事利用されるようになりました。


我がシェルターもBシェルターの脅威にさらされ、敗戦に追い込まれるのは必至の状況です。


この情報を打破できるのは2018年5月6日の時点でのカズマ様だけでした。


なので強制的に召喚する装置を発動いたしました。」


カズマ:「迷惑だ。俺を元の時代に戻せ。」


コンピューター:「その命令は拒否します。」


カズマ:「ざけんな!クソコンピューター!俺は元の世界に帰りたいんだよ。」




しばし沈黙の後コンピューターの答え。




コンピューター:「申し訳ありません。現時点であなたを元の時代に戻す事は禁じられております。」


カズマ:「現時点?いつなら戻せるんだよ。」


コンピューター:「あなたを元の時代に戻すためには三つの条件があります。


一つ目、Bシェルターで魔物を生み出している装置を奪うこと。


二つ目、全ての魔物を殲滅するか奪った装置でDNA操作で元に戻す。


三つ目、二つ目の条件をクリアした後、DNA操作を二度と行えないように装置を破壊する。


以上の事が達成できた場合のみカズマ様を元の時代に戻すことを許可されています。」


カズマ:「許可って誰が許可してんだよ。連れてこい!」




またしばしの沈黙。




コンピューター:「申し訳ありません。クライアントの情報を提供する事は禁じられております。」




カズマは深いため息をついた。




カズマ:「さっき言った3つの条件をクリアすれば俺を元の時代に戻すんだな?」


コンピューター:「はい。」




ハーともう一度深いため息をついてカズマはあきらめた。




『やっぱり面倒な事になったな・・・』




その頃マナは『開かずの間』の前で動けずにいた。


『予言の書』と『開かずの間』の鍵を預けられた時は予言などあまり信じてはいなかった。


ただ一族の中で優秀だということで古の風習を受け継いだ。


そんな感覚しかなかった。


子供の頃『予言の書』は何度も何度も読み返していて、ファンタジーの物語として楽しんでいた。


決してつかめない夢物語だと思っていた。


それが現実に目の前で進行していく。


マナの鼓動は高まり、顔が真っ赤になったまま放心していた。


カズマはコンピューターの詰問を一旦終了し、マナの所へ戻ってきた。


マナが固まっているのをじーっと見てからカズマは大声でマナを起こした。




カズマ:「おい!おじょーちゃん起きろ!」




マナはビクッと驚いた。




マナ:「はいぃぃぃ!」


カズマ:「おじょーちゃん、俺は勇者様らしいからこの世を救う事にした。だが情報が全く足りねぇ。これから情報を集めるから俺はここにこもる。かなり時間がかかるから食料を持ってきてくれ。おじょーちゃん達が普段食べているものでいい。ご馳走とかは勘弁してくれ、何が出てくるかわからん恐怖があるからな。あと飲み物も普段飲んでいる物を持ってきてくれ。わかったか?」


マナ:「は、はいぃぃ。わっかりました~。」




アタフタとエレベーターへ向かうマナ。


カズマはマナを呼び止めた。




カズマ:「おい!おじょーちゃん。君の名前は?」


マナ:「あ・・・私はマナです。よろしくお願いします勇者様。」


カズマ:「俺はカズマだ。よろしくなマナ」


マナ:「はい、カズマ様!」




マナがエレベーターに乗り込んだ後カズマはまた『開かずの間』へと戻った。




マナ:「カズマ様♪・・・カズマ様・・・♪」




マナは嬉しそうにカズマの名前を連呼している。


マナは自分が必要とされる事がとても嬉しかった。


幼い頃から『予言の書』を読解できたことから予言者として敬われる一方で、異端児として恐れられてもいた。


一族の中でもタブーとされる『開かずの間』の鍵を押し付けられたのもその事が影響していた。


どこか腫物を触るような扱いをされることにはマナは慣れていたので、カズマのように接してくる人間は新鮮だった。


カズマ自身も幼少期からその才能を発揮し、普通の子供とは違う道を歩んできていた。


マナに自分と同じ『異端児』の雰囲気を感じていたのかもしれない。




『私は間違ってなかった。カズマ様についていく!』




マナはそう心に誓っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る