第2話 転移

とある城の一室。


夜の城の中は真っ暗闇に包まれていた。


暗闇の寝室でマナはスヤスヤと眠っていた。


一瞬その暗闇が揺れ、何かの起動音が響く。




ヴゥーン・・・




暗闇の中に一点の光が現れだんだんと大きくなる。


マナはその気配を感じて目を覚まし始めた。




マナ:「何?この光。ひょっとして・・・予言の?」




ヴゥーン・・・




なおも異音は続き光はだんだんと大きくなっていく。


大きくなった光の中に人影が浮かんできた。




マナ:「やはりこれは予言どおり・・・」




マナはベッドから飛び起き、棚から一冊の本を取り出す。


本を開きその中のひとつを読み上げる。




マナ:「勇者は光と共に現れ、この世に安定をもたらす・・・」




読み上げる声が震えている。


マナはこみ上げる感動をこらえ切れず涙を流していた。


光の中に現れてきたのは若い男性のようだ。


髪は短く背が高い。


胸板が厚く鍛えられた戦士のような体格のようだった。


男性の姿がクッキリと光の中に浮かびあがった。




ギューン




光がスゥっと消えていき、また暗闇が戻ってきた。


だが現れた男性の周りがまだかすかに輝いていた。




マナ:「ああ・・・勇者様だ・・・」




マナはそうつぶやきながらボロボロと涙を流す。


目をつぶっていた男性はゆっくりと瞼を開き、あたりを見回した。


マナは男性にむかって話しかける。




マナ:「あの・・・勇者様・・・ですよね?」




男性が鋭い目でマナをにらみ怒鳴りつけた。




カズマ:「俺はカズマだ!!!」




カズマの強い口調にもマナはひるまず続けた。




マナ:「いえ、あなたは間違いなく勇者様です。この予言の書に記された通り光と共に現れました。私はその瞬間をハッキリみました。ありがとうございます、神様。これでこの世は平和になります。」


カズマ:「ちょ・・ちょ・・ちょっと待て。おーれーはーカ!ズ!マ!ゆうしゃしゃまじゃなーいーの。おじょーちゃん変な宗教の勧誘ならよそでやってくんねぇかな?」




そう言ったあとカズマはまたあたりを見回す。




カズマ:「あれ?ここどこだよ?俺の部屋じゃねぇな。」


マナ:「ここはサンライト城。ヤマト大陸でもっとも頑丈なお城の一つです。」


カズマ:「サンライト城?ヤマト大陸?」


マナ:「はい、私はマナ。予言の書を代々言い伝える一族の一人です。」




カズマは思った。




『これは夢だ。そうに違いない。』




ほほを思いっきりつねる。




『痛い・・・夢じゃないって事か・・・』




カズマはマナが大事そうに抱えている『予言の書』を取り上げ開いた。


マナは驚いて奪い返そうとするがカズマはそうさせなかった。


『予言の書』に書かれている文字はカズマには読めなかった。




カズマ:「おい」


マナ:「は・・・はい?」




カズマは『予言の書』をマナに返し質問する。




カズマ:「今は何年だ?」


マナ:「え?なんねん?なんねんって何ですか?」




カズマは手で目を覆った。




カズマ:「悪かった・・・聞き直す。お前たちの一族の歴史と俺が救うというこの世の状況を教えてくれ。」


マナ:「は・・・はいぃぃ。」




マナは本棚から新たな本を取り出し、一族の歴史を語りだした。


内容は『予言の書』を読解してそれを代々伝えていく為に何をしてきたかという話だった。


ここにはカズマの知りたい事は何も語られていなかった。


次にマナは自分達の世界の状況を説明した。




マナ:「サンライト城で暮らしているのはおよそ1000名程です。城の庭では野菜を栽培したり、家畜を飼ったりして食料を得ています。この城の他にも色々とお城がありますが城主は対立しています。お互いがお互いの存在を認めず戦争を繰り返してまいりました。この戦争終わらせ世を平和へと導くのが勇者様なのです。」




ここにもカズマの知りたい情報はなかった。




カズマ:「オイ、城の中を案内しろ。」


マナ:「は・・・はいぃぃ。」




マナはあたふたとローブをはおり、燭台を用意し、明かりをともした。




『やれやれ・・・厄介な事になりそうだな・・・』




カズマはマナから燭台を受け取りマナの後をついていった。

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