第2話 迷い

 今日はオシャレにも気合を入れて、最高な気分でお出掛け。


 大変だった就活も無事に内定をもらえたし、苦労した卒論だってなんとか終わらせた。


 提出期限ギリギリだったから、最後はパパにも調べ物を手伝ってもらっちゃったんだっけ。


 大学の卒業も確実になった私達は、大好きな仲良しグループで卒業旅行に行く事にしたの。


 行き先はグアム。


 ホントはハワイが良かったけど、予算的にチョット無理だったのはしかたないよね。

 

 折角の海外旅行だもん、色んな場所に行って沢山遊びたいじゃない?


 初めての海外旅行に気持ちが弾む。


 今日は快晴。


 まるで今日の私の心を表しているみたい!


 冬の太陽は優しい。


 柔らかな光で私を包み込んでくれる。


 花屋の店先に並んだポインセチアも、赤く色付き、なんだか輝いてい見える。


 もう直ぐクリスマス。


 今年のクリスマスは常夏のグアムで過ごすと思うと、街の景色までキラキラして見えるよう。


 ついつい頬が緩んでしまう。


「おはようポインセチアさん」

 

 ポインセチアに微笑みかけながら、区役所へパスポートの申請に必要な「戸籍抄本」を取りに行った。


 平日の昼間でも混雑する役所の窓口。


 こんなに人が沢山いるのに、なんとなく静まり返ってて、なんだか不気味。


 そんな事を考えていたら、あたしの番号が呼ばれた。


「戸籍抄本」を受け取り、お金を支払う。


 なんとなく書類を眺めた私に戦慄が走る。


「えっ?養子?」


 あたしは3人兄弟の一番上。


 第一子長女だと、今までずっと疑わずに過ごして来た。


 何かの間違いではないの?


 間違えて違う人の書類貰っちゃった?


 もう一度見直してみる。


 「坂下 瞳さかした ひとみ


 私のもので間違いない。


 何度も見返してみるが、やはり「養子」の文字は消えなかった。


 優しい太陽は、私の気持ちを慰めようと思っていたから、柔らかい光を注いでたんだって思った。


 どこをどう歩いたんだろう。


 帰り着いたのは、夕方だった。


 家に帰ると、ママは台所で夕飯の支度をしていた。


 ナチュラルメイクにワンピース。

  

 ワンピースの上には可愛いエプロン。


 いつも手早く料理をしてくれる。


 今朝と変わらない普段通りのママ。


「お帰り瞳。 遅かったのね。今日は大学休みでしょ? 一体、何処へ行ってたの?」


「うん。ちょっとね 」

 

 笑顔で出迎えてくれたのに、ママの顔が見られない。


 ママの顔を見ちゃったら、気持ちが溢れて涙が出そう。


 “ねえ。ママ。私、ママの本当の子供じゃないの? ”


 聞きたいのに。


 喉に使えて、上手く言葉が出ない。


 だって、言ってどうするの?


 “そうだよ”って言われたら?


 あたし、どうしたら良い?  


 顔を見られたくなくて、すぐに自分の部屋へ駆け上がる。


 部屋に入ってすぐに、ベットに崩れ落ちた。


 どうしよう。


 どうしよう。


 どうしよう。


 弟のみさきと妹のつばさは、パパとママの子供に間違いない。


 ママのお腹が大きくなるの、見てたもの。


 産まれたときに、パパと一緒に病院にも行ったもの。


 兄弟ができた事、本当に嬉しかったっけ。


 ねぇ。私だけ?


 私だけ本当の子供じゃないの?


 なんで?


 どうして?


 答えを探してグルグルと考えるけど。


 何処を探しても、答えは出て来ない。


 気がつくと、部屋の中は暗くなっていて。


 自分の存在も暗闇に混じって見当たらない。


 真っ暗で探せない。


 あたし、今、いったいどこに居るの?

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