第104話
占いコーナーを後にした小森一行は砂川の提案によりトイレ休憩に入ることになっていた。
なにせ砂川による次の作戦ではしばらく外に出られなくなるからだ。
細工の再確認を行う砂川をよそに小森はメッセに気が付く。
すぐさまアプリを起動すると、
コードネーム:エンジェル→デビットソン田中へ
ポイント2−788へ来い
(泉さんからメッセが来てた! ……どっ、どうしよう! 集合がかかっちゃった!)
今日のダブルデートに泉天使が潜入していることは小森翔太だけが知っている秘密である。
指令を視認するや否や、小森は慌てて、
「すなが――じゃない。健吾くん」
「ん? どうした翔太」
「僕ちょっとフランクフルトが食べたいからあっちに行っているね?」
「はぁ!? いやいやいや! 後で昼食をみんなで取るつもりだからよ、そんときまで我慢しようぜ? 高嶺やしっ、雫だって直に――」
トイレ休憩の後、すぐに次の作戦を開始したい砂川は小森の離脱に焦りを見せる。
しかし、エージェント小森にとって泉司令官の指令は絶対。ここで折れるわけにはいかない。
脳内で必死に言い訳を探す小森。彼の頭上に豆電球が灯るや否や、
「それじゃ間に合わないんだ……」
「間に合わない⁉︎ まさかそこまで腹が減って――」
「――僕は定期的にフランクフルトを取らないと爆発する奇病――フランクフルトボンバーに罹っているっていう話はしたかな?」
「初耳だけど⁉︎ つーか、フランクフルトボンバー? 怖過ぎんだろ!」
「ふざけないでよ健吾くん。僕はいま生きるか死ぬか、デットオアアライブの岐路に立たされているんだよ?」
「俺がふざけないでと戒められる側なのかよ! というより、そんなギリギリの状況なのお前⁉︎ だったら早く買いに行けよ! 遊園地でダブルデート中に相方がフランクフルトボンバーとか、お前、俺の気持ちを考えたことあんのか?」
一秒でも早く司令官の元に駆けつけることしか頭にない小森。
話す相手が超絶リア充の美少年にも拘らず、掛け合い漫才が発動する。
「けどなるだけ早く戻って来いよ。もうすぐ高嶺と雫が戻ってくるだろうし」
「それなら大丈夫じゃないかな? あの二人の化粧直しって結構時間がかかるからさ。まっ、健吾くんなら女性を熟知しているから僕が言うまでもないことだけどさ」
「!?」
思考が完全に泉天使との合流に支配されている小森。
無意識に砂川にナイフを突き立てる。
(あの二人の化粧直しって結構時間がかかるだあ⁉︎ おめえの方が女の扱いに慣れてんじゃねえか! まさか翔太の正体は――天然肉食女たらし男子なのか⁉︎)
「えっと、そういうわけで少しだけ持ち場を離れてもいいかな?」
「いいよ! 全然いいよ! なんか俺が止めてる感じが妙に嫌だわ!」
「ありがとう健吾くん。君は命の恩人だよ」
「大袈裟だろ……って早いな!」
まるで大切な人に呼び出されたようにその場を後にする小森。
「ちょっ、待てよ」と手を向けながら言う暇もなくグングン離れていく。
彼を目で追う砂川だが、
(フランクフルトを売る屋台には目もくれず通過していく小森)
「フランクフルトボンバーはどうしたよ、おい⁉︎」
突っ込まずにはいられない。
顔を屋台に向けるどころか視線さえも向けずに走り去っていく。
さすがの砂川も小森が泉天使の元に駆けつけたという発想はない様子。
なにせ砂川は小森が高嶺&泉に二股していると踏んでいるが、その光景をわざわざ見せつけるはずがないと無意識に思っているからである。
小森が高嶺とのデートをもう一人の恋人である泉に見せるわけがない、むしろ隠し通すはずだと、そういう理屈である。
すぐさま頭のチャネルを切り替える砂川。
なにせ次は遊園地デートで必ずと言ってほど登場するアトラクションが待っている。問題は誰が誰と搭乗するか。
その細工の再確認で頭がいっぱいの様子である。
余談だが、男にとってブラックボックスとも呼べる女子トイレ。
どうやらこちらもすごいことになっている様子。
まだまだ混沌は終わりそうにない。
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