第103話
「えっと……このカードが示す意味を教えてもらえますか?」
見るからに狼狽している占い師に督促する高嶺。
「あばばばばばばばば」
一方、当人は未だ困惑を隠しきれない様子で、意味不明な言葉を呟いている。
(いいからさっさと鑑定結果を教えろよ!)
意中の異性が別の女を目で追っていることと相まって苛立ちがピークに達する高嶺。いよいよ口調が激しくなる。
「しっかりしてください!」
まるで慌てふためく占い師の頬を平手打ちするかのような声量。
その言動に周囲が騒つく。
「ハッ。ごめんなさい……あまりの衝撃に飛んでしまっていたわ。ごめんなさいね」
「いえ、気にしないでください。その代わり早く私の鑑定結果を教えてもらえますか?」
「……正直に告げていいのね?」
「――はい」
占い師と高嶺の間で視線の応酬。
再びピリッとした緊張感が占いコーナーを支配する中、
「引いたカードが指し示す意味は『負け犬』よ」
告げられた次の瞬間、
――ピキピキピキッ……パリーンッッ!
なんと占い師の水晶玉に亀裂が入り、真っ二つに割れてしまう。
いよいよ超常現象にまで発展する占いに高嶺を除く全員が思わずにはいられなかった。
((((水晶玉が割れた⁉︎ 不吉の前触れじゃ⁉︎))))
「まっ、負け犬ってどういうことかな?」
一方、高嶺はプルプルと震えながら先を確認しようとする。
額に血管が浮かび上がり、表情筋だけで笑顔を作るものの鬼のような形相になっていた。
「本当に申し訳ないけれどそのままの意味よ。恋愛における『負け犬』。どうやら意中の相手に惚れ込むのが遅かったようだわ……」
「……巻き返す方法はないんですか?」
「えっと、これは私もはっきりは視えてないんだけど(今となっては水晶玉を覗くことができなくなっちゃったし……というか長いこと占いやっているけど目の前で水晶玉に亀裂が入ったことなんて初よ⁉︎ 不吉過ぎるわこのカップルたち!)」
「なんでもいいので聞かせてください」
「具体的なことは言えないんだけど、どうやら一度全てが白紙――リセットされたような状況が訪れるわ。そのとき高嶺さんがなりふり構わず勝負に出られるかどうかが鍵になるわね」
「はっ、はぁ……」
占い師が言った通り、抽象的な助言に首を傾げる高嶺。いまいちピント来ていない様子。
しかし、この予言が後に小森、夏川、高嶺、砂川、泉を大きく揺るがすことになる。誰も見たことのない――誰も想像していなかった青春が待っていようなど、このときの彼らが知るよしもない。
「というわけで占いは終わり。ここからは占い師としてじゃなく、大人としての助言だけれど――占いなんてしょせん遊びだからね?」
((((ええ⁉︎ 貴女がそれを言いますか⁉︎))))
突然の切り出しで驚きを隠せない小森一行。
占い師は彼らの倍以上の人生を歩んできた大人としての雰囲気を纏いながら続ける。
「本当はこういうことを伝えるのもあまり良くないとは思うんだけど……学生の恋愛なんて大人のそれに比べたらおままごとみたいなものよ」
((((むっ))))
今度は彼らの顔に不満の色が強く出る。
たしかに大人にとっての恋愛は学生のそれと比べて楽しいだけ、言わば良いとこ取りである。
学生が大人になったとき、己がこれまでの恋愛を振り返ることができるようになって初めて見えてくる景色もある。
それを暗に伝えたかった占い師だが、彼らは彼らなりに一生懸命恋愛をしているからこそ噛み付きたくなっていたのだろう。
微笑ましい光景に占い師は一番伝えたかったことを口にして締めることにした。
「けれど意中の異性を盲目的に愛して――それこそ自分の全てを捧げてでも添い遂げたいと想う気持ちは大人になってからのそれと引けを取らないどころか優っているぐらいよ。つまりね――」
――悩むな少年少女。好きなら真っ直ぐにその想いを貫けばいいの。周囲がどう思おうが、どんなに批判されようとも自分の気持ちを優先しなさい。学生たちの貴方たちにはその資格があるんだから。
占い師ではなく大人の助言を受け取った小森たちは各々思うところがあったのだろう。最初は不満げな表情を見せていた彼らもすとんと落ちた様子。
ポップコーンを食しながら『いよいよ新たな展開か……』と渋い表情をする神々――。
このダブルデートで絡みに絡まった糸が一気に解れるようなことは――なく!
やっぱり全然、これっぽっちも上手くいかない恋のジェットコースターが待っていた!
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