第102話
占い師による砂川健吾二股疑惑発言。
対外的には恋人である夏川雫の瞳に軽蔑が宿る。
「健吾……あなた最低ね」
((((⁉︎))))
夏川雫にとっては弟に対する軽蔑であったが、完全に己のことは棚に上げている様子。
誰のせいで砂川健吾が姉の偽装恋人をしているのかを完全に失念していた。
(ちょっ、てめっ……! なんつう冷たい視線を送ってきやがる! そもそも誰のせいでこんな目に遭っていると思ってんだ! 元はと言えば天使という恋人がいる身分でありながら俺に偽装恋人をさせたのは姉さんだろうが!)
さすがの砂川も我慢に我慢を重ねてきたのだろう。
つい不満を滑らせてしまう。
「……なんか文句あんのか?」
砂川にとってそれはただの姉弟ケンカに過ぎない。
しかしそれを聞いた小森の内心は複雑だった。
(開き直った⁉︎ まさか二股していることを夏川さんの前で認めるつもりなの⁉︎ あれなんでだろう……すごく胸が痛いような……やっぱり二人はすれ違い始めてたんだ)
チクリと蜂に刺されたような痛みが胸いっぱいに広がる小森。
やはり夏川と偽装恋人をしていた期間があるだけに、今の言動はいただけなかったのだろう。
この胸の痛みが夏川雫に対する恋愛感情から来るものであったことを自覚するのはもう少し先である。
(おいおい何が起きてやがる? 砂川と夏川が険悪になってんぞ? 落ち着け……考えろ高嶺繭香。この場で現況を最も的確に把握できるのは私のはず。頭を働かせろ。まず砂川と夏川は偽装の関係。すなわち夏川の「最低ね」は「私という女がありながら」という単純なものじゃない。なにせ砂川も「なんか文句あんのか?」だ。下手すりゃ小森でさえ、二人の関係を怪しむことになりかねない発言だろ。どう考えたって険悪なカップルじゃねえか。恋人というよりはもっと親しい間柄のような――そう、友人や家族に対するそれだ。その辺は砂川の野郎から後で直接問いただすとして……)
この場で最も真相に近付く高嶺であったが、彼女もまた胸を締め付けられるような想いになっていた。
なぜなら意中の相手である小森が不快や怒りが入り混じった顔で夏川ペアを見ていたからである。
その心中はまさしく『私だけを見てよ』に近い。小森の意識が夏川に向いていることをいち早く察知したのは何を隠そう高嶺であった。
胸の中に湧き上がるドス黒い感情――嫉妬と独占欲。
それを自覚した高嶺。ハッと我に帰る。
(おいおいおいおい⁉︎ なんだいまの嫌な女まっしぐらの黒い感情は⁉︎ 嘘だろ⁉︎ いよいよ小森を独占したい欲まで抱いちまってんのか私は⁉︎ マジでミイラ取りがミイラになってんじゃねえか! 冗談じゃねえぞ! 小森が私なしじゃ生きられないようになるんだよ!)
姉弟でバチバチと視線の応酬を繰り広げる夏川&砂川。
それを複雑な心境で眺める小森。
そしてその小森を独占したいと願ってしまった高嶺。
まさしく恋の呼吸 恋模様の型 捻れ渦。
覚悟を固めて高嶺は告げる。
「それじゃ次は私の番だね」
彼女の発言で再び占いコーナーに緊張が走る。それはまさしく覇気。
海賊がいないにも拘らず、凄まじい重圧。
ゴクリと生唾を飲み込む音。
表向きになったカードはなんと――、
――逆位置の、尻尾を巻いた犬。
描かれたイラストを視認した占い師は、
「えっ、あの、その……これは、その――あばばばばばばばばばば」
((((気まずくてフリーズした⁉︎ 一体何のカード⁉︎))))
最後の一人、高嶺繭香の鑑定が始まろうとしていた。
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