第62話
がっくりと頭を垂れ、わなわなと震える小森翔太。
その様子を見た夏川雫は背を向けて現状を報告する。
「ちょっと……翔太くんが視線を逸らして小刻みに震えているわよ? 大丈夫なんでしょうね」
視覚情報がない大橋健吾はその報告に武者震いする。
(さては姉さんを攻略できると確信して笑みをこぼさずにはいられなくなりやがったな? 悟られないよう視線を逸らして笑っているのが何より証拠だ! まあ無理もねえか。パーフェクトヒューマンである夏川雫の意外な一面を異性である自分だけに打ち明けられたんだから。そりゃ嬉しさもひときわだよな。それにしてもまさかここまで上手く行くとは。我ながら完璧過ぎて恐え。天才かよ俺)
『「大丈夫。万事上手くいってるよ。ありゃ喜びを噛み締めてやがんだ」
(……そうかしら。あれはどちらかと言えばショックを受けているようにも見えるのだけれど……)
☆
それからしばらくショッピングモールを見て回る小森翔太と夏川雫。
プレゼント選びが始まってから二人はたわいもない会話で間をつなぐ。
しかしトイレ休憩で別れたところで事件が発生。
先に用を済ませた小森翔太に待っていたのは人生初の――。
「いっ、泉さん! どっ、どどどどうしましょう⁉︎ やっぱり失礼を承知で逃げた方がいいんでしょうか?」
『「逃げちゃダメです翔太さん! これはむしろチャンスです。余裕のある男を見せつけてやりましょう」』
一方、ハンカチで手を拭いながらお手洗いを後にした夏川雫。
合流地点に視線を向けるや否や、
「ぎゃああああああああああああああっ‼︎ 健吾っ、健吾ぉっ!」
『「どっ、どうした姉さん⁉︎」』
トイレ休憩でオフにしていたピンマイクの電源が入った途端、大橋健吾の耳に悲鳴が飛び込んでくる。
視覚情報を得られない彼にとってそれは驚きと不安を抱かせるのに十分である。
「どっ、どうしよう。翔太くんが翔太くんが――」
「余裕のある男を見せつけるってそんなの無理ですよ。だって――」
「女子大生二人に逆ナンされてるううううううっ!」「女子大生から逆ナンなんて初めてなんですから!」
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