第46話

 夏川 雫


 午前八時。三菱アウトレットモール

 夕方のデートに備えて私は

 私がここに足を運んだ目的は一つ。


 


 最初こそデートの時間変更に戸惑った私だけれど彼のメールを見て確信した。なにせ、

お願いできないでしょうか。その代わりと言っては何ですが


 私と翔太くんは年ごろの男女。若い肉体を持て余した学生だ。性欲に一番敏感な時期と言ってもいい。

 そんな彼の《後生の頼み》が夕方から会いたい。日曜日まで付き合いますので、ときた。

 ずいぶんとオブラートに包んだお願いの仕方だけれど……安心して翔太くん。


 あなたの願い。しかと読み取ったわ。

 ――一夜を共にしてください、という願いをね。

 まさか翔太くんから『僕を男にしてください《童貞を卒業させてください》』とお願いされるなんて……さすがの私も予想外だったわ。

 でも大丈夫。文字通り一肌脱いであげる。いいえ、一肌どころか身にまとっているもの全て脱ぎ捨てる覚悟よ。


 もっ、もちろん私も初めてだから上手くいくかどうか分からないけれど。

 というわけで私は三菱アウトレットモールにを買いに来ていた。


「ふあぁー、眠ぃ……おっ、おい。こんな朝早くからアウトレットモールなんか来てどうすんだよ。こっちは姉さんのせいで一睡もしてねえんだぞ。ショッピングなら一人でもできんだろうが」

 あくびをしながら文句を垂れ流す弟。全く一徹したぐらいで情けない男ね。

 たしかに昨夜は激しい作戦会議だったとは思うけれど。


「いいえ。健吾にはがあるの。そもそも翔太くんをデートに誘うよう提案したのはあなたなのだから最後まで付き合いなさい」

「付き合うったって夕方のディナーまですることねえだろうが。俺をこんなところに連れて来て何をさせるつもりだよ」

「それは午後のお楽しみ。でも心配しないでいいわよ。健吾も男だし決して興味がないことじゃないわ。それにその……女の私だけじゃ分からないのよ。……」


「ああん? 喋るなら聞こえるように話せっての」

「とっ、とにかく! これはとても重要なことなの。いつまでも寝ぼけたままでいられると困るのよ。まずは目を覚ましなさい。ほらっ、朝食を奢ってあげるからコーヒでも飲みなさい」

 こうして私は健吾の腕を引っ張りながら喫茶店へと入っていった。

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