第47話
小森 翔太
「容姿が平凡な人が垢抜けるためには何が必要だと思います?」
メンズ服を物色しながら聞いてくる泉さん。
フツメンがカッコ良くなるために必要なもの?
うーん、なんだろう。さっぱり分からないや。
でもこうして僕に似合う服を選んでくれているあたり、
「ファッションセンスですか?」
「ブッブー。不正解です」
「えっ? 違うんですか」
「正解は――」
物色をやめて振り向く泉さん。
彼女は白シャツと黒ズボンを手にして距離を詰めてくる。
えっ、えっ、なに⁉︎ すごく近いんですけど⁉︎
まさか正解は女性に慣れることですか⁉︎
だっ、ダメですよ! いくらお礼とはいえ女の子がそんな気軽に――。
泉さんの顔がグッと近付く。おもわず僕が目を閉じてしまった次の瞬間、
「――整形です♡」
「ちくしょう! どうせそんなことだろうと思いましたよ!」
ケッ、別に期待なんかしてませんよ!
どうせ僕は醜いアヒルの子ですぅ。
「あれれー。頬が赤くなってますよ。まさか『女性に慣れること』が正解だと思いました?」
「まさかのお見通し⁉︎」
「ふーん。なんなら手取り足取り教えてあげましょうか。ぼーや」
にやぁと口元を緩め人差し指で僕の胸をなぞる泉さん。
何か良くないものが背筋を駆け上がってくる。
なっ、なにが天使だ! これはもう悪魔の部類だ!
「ふふっ。悪魔は悪魔でも小悪魔ですけどね」
「僕の頭の中筒抜けじゃん!」
「脳みそ入っているんですか?」
「おっと。毒舌もキレキレだ」
「とまぁ冗談は翔太さんの顔だけにして」
「いやできれば僕の顔も本気にして欲しいんですが」
「実はファッションセンスが間違いとは言い切れないんです」
「だとしたら毒の浴び損じゃないですか……」
「ただファッションにセンスは不要です。それだけは断言しておきます。よし。サイズも大丈夫そうですね。とりあえず今日は《魚》だけ渡しておきます。どうせこれからもしばらくは会うことになるでしょうし《釣り方》はおいおいレクチャーしますから」
「えっと……」
話の展開に着いて行けず置いてけぼりをくらう僕。
泉さんは白シャツと黒ズボンを僕の身体に被せて寸を測ったあとそれらを手渡してくる。
「それではレジにGOです。あっ、ちゃんと試着室で着替えて来てくださいね。そのあとは美容院に直行です。ふふっ。楽しみです」
☆
「おおっー! ずいぶん見違えましたね!」
カットを終えて美容院を後にすると泉さんが拍手をしながら出迎えてくれた。
白シャツと黒ズボン(どうやらスラックスというらしい)を身に付けた僕は自分でも信じられないくらい大人っぽくなっていた。
見てくれが格段にレベルアップしたことは素直に嬉しいものの、なんというか歯がゆい。
自分が自分じゃないというか……なんていうか『背伸びしてみました!』的な感じ。
Tシャツに短パンという子供っぽさは微塵も残っていなかった。
「あの……泉さん。正直オシャレにはなったと思うんですが……これって僕に似合っているんですか?」
「バッチリです! 女の子は頼れる男の子に惹かれるんです。受け身の生き物ですからね。大事なのは《大人っぽさ》と《清潔さ》です。翔太さんが履いているスラックスはドレスですし、白シャツは清潔感があります。それに何より髪がすごくスッキリしました。眉毛も整えてもらって良かったでしょう?」
「ええ、まあ……」
「女の子には化粧という魔法がありますけど男の子は基本的に使えませんからね。そうなると必然的に触ることができるのは髪型と眉毛になります。髪はサイドを刈り上げることで、あっ、翔太さんのそれはツーブロックって言うんですけど、すっきりさせました。横が膨らんだ髪型は要注意です。眉毛もプロの方に整えてもらうだけでキリッとした男らしい印象が出ます。翔太さんは痩せ型ですし、これで一気に好青年です!」
なっ、なんか泉さんが急に饒舌に。それに目もキラキラしているような……。
可愛い息子の船出に心躍らせる母親、みたいな感じ?
あの泉さんから毒じゃなく母性が溢れ出していた。雪でも降るんじゃ……。
「これで午後からの予定も大丈夫。どこに出しても恥ずかしくない格好です」
「あの……ありがとうございます。でも本当に良かったんですか? 泉さんのおかげでずいぶんスッキリしましたけどもう時間が……」
「……気にしないでください。これが私のやりたいことだったんです。あー、これで翔太さんに彼女がいればもっと面白いことになっていたのに。楽しい反応を見れずに残念です。それだけが心残りですよ」
くぅーっと悔しがる泉さん。
僕ってそんな劇的に変わったの?
いまいち実感が湧かないんだけど。
「というわけで今日は私に付き合っていただいてありがとうございました。すごく気分転換になりました」
「そんな。僕は何も――」
「それじゃ私はアウトレットモールをもう少し見て回りますのでここで解散ということで」
「あっ、はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます