第45話

 小森 翔太


「ところで翔太さん」

「あっ、はい。なんですか泉さん」

「褒めてもらえるのは嬉しいんですけど……どうして翔太さんは何も着ていないんですか? 目のやり場に困るんですけど」


「着てますけど⁉︎」

 ちょっ……泉さん⁉︎ 何てことを口走ってんの⁉︎

 仮に、仮にだよ?

 僕たちが小説の登場人物だったとしたら、世界の外側から観測している読者がビックリする発言だからね⁉︎ まるで僕が彼女でもない女子高生を連れて露出を楽しんでいる変態みたいじゃないか!

 いくらなんでも看過できない発言なんですけど⁉︎


「ごめんなさい。どうやら目が疲れているのかもしれません」

 いいえ泉さん。もし僕がアウトレットモールに裸で来たように見えたなら疲れているんじゃなくてイかれているんです。

「もし良かったら僕の目薬を貸し――」

「――ちゃんと靴下だけは履いていましたね」


「変態度が増した! 変態からド変態に格上げされちゃったよ⁉︎」

「格上げ? 何を言っているんですか。格下げの間違いじゃないですか?」

「どっちでもいいよそんなの!」


「ハッ。まさか翔太さん、バカにしか見えない服を着ているとおっしゃると」

「言ってませんけど⁉︎ というかバカにしか見えない服って何ですか⁉︎ バカの目には見えない布地の間違いじゃないんですか!」

「それだと私がバカになっちゃうじゃないですか」


「遠回しにそう言ったんですけど⁉︎」

「バカって言った方がバカなんですぅー」

「泉さんが幼稚化した⁉︎」


「とまぁ……翔太さんの特殊な性癖の話はここまでにして――」

「いや、待ってよ! ちゃんと僕が服を着ていることを口にしてもらえます⁉︎ もし僕たちの会話を覗き見ている読者がいたらどうするんです⁉︎」


「読者? 何を言っているんですか翔太さん。頭大丈夫ですか」

「くっ……それを言われると言い返す言葉もないんだけど……」


「そこの君! どうして何も着ていないんだ! 署まで連行する!」

「⁉︎」





















「――やめて! お願いだからやめてください! 本当に僕が何も着てないと勘違いされたらどうするんですか!」

 ちなみに今のは泉さんが声を変えて警察の振りをしただけなのであしからず。

 不特定多数の人の前で露出できるほど僕は度胸が据わっていない。


「ふふっ……翔太さんって本当にノリが良いですよね。楽しくてどんどん弄りたくなります」

「やめてくださいよ本当に……」

 嘆息。


「ひと通りからかいましたので服を着ていることは認めます。ですが正直言ってダサいです。Tシャツに短パンって……今どき小学生でもそんな格好しませんよ」

「うぐっ……やっぱりダサいんだこれ」

 なるほど。泉さんの私服弄りの真意はここだったか。


「はい。それはもう肩を並べて歩きたくないほどです」

「そこまで⁉︎」

 もはや涙目になる僕。決してオシャレでないことは自分でも分かっていたけど女の子から「隣を歩いて欲しくない」と言われると胸に刺さるものがある。


 肩を落とす僕に泉さんは、

「というわけで服を買いに行きましょう翔太さん。ついでに髪も切りませんか? 私が翔太さんに似合う髪型を美容師に直接お伝えしますから。美容院もたくさんあるみたいですし」

「はい?」


 想定外の提案に首を傾げる僕。

 びっ、美容院って……あの足を踏み入れるだけで緊張するところですか?

「それじゃ泉さんが見たいところを回る時間が無くなっちゃうんじゃ……」


 正直なところ僕は繭姉と泉さんを会わせるつもりは全然なくて。もちろん夏川さんと会わせるのは論外。

 だから今日の僕の予定は以下のとおりだ。

 

 午前中は泉さんと三菱アウトレットモールでショッピング。

 基本的には彼女が行きたいところに付き合うつもり。微力ながら気分転換のお手伝いができればなと。

 ただし午後からは繭姉との約束があるから、泉さんとは午前中で解散することになっている。


 さすがに「彼女(偽装)とデートがあるから泉さんとは午前中まで」とは言えないので(あっ、いや別に後ろめたいことは何一つないから言えないこともないんだけど、色々と説明が大変でしょ?)午後からは予定があるということで承諾してもらった。


 お昼からは繭姉とここで昼食だ。

 移動時間が無い分、午前中は泉さんの気分転換に時間を割けるってわけ。

 最悪、泉さんが午後からもアウトレットモールに残って鉢合わせることになったとしても僕の隣にいるのは繭姉。後ろめたいことは何一つない。さすがに泉さんも戸惑うだろうけど事情を説明すれば済む話だ。


 で、一番神経を割いたのが夕方。夏川さんである。

 どうやら夏川さんは僕とのショッピングに丸一日を予定していたらしいのだけれど、急遽無理を言ってショッピングの時間を夕方からにしてもらった。

 ちなみに依頼したメールの内容は、

『後生の頼みなんですが、ショッピングは夕方からお願いできないでしょうか。その代わりと言っては何ですが

 

 あっ、そうそう。余談だけれど夏川さんが提示したお店は三菱アウトレットモールとは正反対に位置する大型ショッピングセンター。

 いくらなんでも夏川さんと泉さんを会わせるわけにはいかないからね。こればかりは彼女たちに会う時間をズラすからと言って同じ場所とはいかない。

 僕が泉さんを三菱アウトレットモールに提案したのはここに誘われたのがだったから。


 というわけで午前中は泉さんのしたいようにするつもりだったんだけど……。

 美容院になんか行ってたらすぐに午後になっちゃうよ。それに僕の服を見て回るような口ぶりだし。


「気にしないでください。むしろ今日は翔太さんへのお礼なんです」

「お礼?」

 お礼されるようなことをしたっけ僕?


に対するお礼ですよ。まっ、気にしないでください。これが私のやりたいことですから」

「まあ泉さんがそれで良いなら異論はないけどさ……」

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