第37話

 高嶺 繭香


 夏川の思惑を大方察した私は退について考え込んでいた。

 なにせ私は夏川が小森を諦めたと思っていたからな。

 まさか偽装カップルで小森の嫉妬を煽ってくるなんて想定外だったぜ。


 こうなってくると私は小森とわけだ。

 なにせ夏川は私から小森を略奪する気満々。

 小森と別れた途端、ハイエナの如く横取りしに来るだろう。


 クソッ……何も追い込まれていねえはずなのになんだこの感じ。

 ジリジリと距離を詰められている気分だぜ。

「私のしていることは決して褒められたことではないわ」


 聞いてもいないのに喋り始める夏川。黙れ。こっちは神経を研ぎ澄ましてんだよ。

「でも。だから高嶺さん。あなたには打ち明けさせてもらったわ。もちろん私の目的を小森くんにバラしてもらっても構わないわ。あなたにはその権利がある」

「っ!」


 この野郎……ここに来てまたとんでもねえのをぶち込んできやがったな。

 状況から考えて夏川が小森に惚れていることは火を見るよりも明らかだったが、これで確信した。なにせ『諦めきれない』だからな。とうとう白状しやがったわけだ。

 そして『私の目的を小森くんにバラしてもらっても構わないわ』だが――。


 ――言えるわけがねえだろうがああああああああああああああああっ‼︎

 私は仮にも小森の彼女なんだぞ? 

 その私が「そういや夏川さんの彼氏、あれ実は偽物で翔ちゃんの気を引こうとしているんだって」なんて言ってみろ。


 一瞬で私の負け確定だろうが!

 言いたかねえが、お前ほどの美少女に偽装カップルをしてまで気を引こうとしていることがバレたら色めき立たねえ男なんていねえっての! 間違いなくイチコロだわ!


 クソ……対外的には〝弱み〟を握ったはずなのになんで私の方が退路を断たれてんだよ。ワケ分かんねえ。

 まさか夏川のヤツここまで計算して? だとしたら相当の策士だが…………いや、それはねえか。

 たぶんこれは偶然の産物だろう。


 小森と偽装カップルをするところまでは良かったが、まさかこんな逆襲が待っていようとはな。

 試合に勝って勝負に負けた気分だ。

 ……とりあえずこうしちゃいられねえ。


 こうなりゃ夏川のこじれが小森に気付かれる前に攻略しねえと……。

 とはいえ、焦る必要はねえだろう。しばらくは空回りが続くはずだ。

 なにせ嫉妬心を煽ろうとすればするほど小森の夏川に対する好意は削がれちまうからな。


 ククッ。しばらくはからかい甲斐のある日々になりそうだぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る