第32話

(ぎゃああああああああああああああああっ‼︎ 死んじゃう、死んじゃうよおおおおおおおおおおおおっ‼︎)

 大橋健吾が巻き起こしたセ◯ンドインパクトにより泉天使は絶望を禁じ得なかった。

『残酷な天使のように』とはまさにこのことである。


 そんな彼女から目を逸らせない小森翔太。内心はもちろん荒れ狂っていた。

(うぎゃあああああああああああああああっ‼︎ 泉さんが! 泉さんがああああっ‼︎ あまりのショックに腰を抜かしちゃったよ⁉︎ お医者さん、お医者さんはいませんか! 誰か彼女に救いの手を!)


 本当はいますぐ泉天使の元に駆けつけたい小森翔太。

 しかしそんなことをすれば大橋健吾と泉天使の修羅場が発生すると確信した小森はこの場を早急に切り上げることを選択!

 この決断が事態をより複雑化する。


「えっと……僕にそんな告白をしてどういうつもりなのかな?」

 不機嫌、というより若干怒っているようにも見えるその言動に例の姉弟きょうだいは、


(なっ……! まさかあの小森が俺の挑発に乗ってきやがっただと⁉︎ 嘘だろ⁉︎ こいつはどう見てもそういうタイプの男じゃねえだろうに! まさか姉さんの作戦通り嫉妬心を煽ることに成功したってのか⁉︎ マジかよ⁉︎)


(翔太くんが嫉妬してりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ‼︎ ええっ、嘘⁉︎ ほんとっ⁉︎ 作戦が成功することは確信してたけど……まさかここまで効果覿面だなんて。あまりの嬉しさにどうしても表情が緩んじゃう。でもここで油断しちゃだめよ夏川雫。翔太くんを私無しでは生きられないようにするためにもっと恋の炎を燃え上がらせないと!)


 この場で最も真相に近かったのは高嶺繭香。

(そりゃさすがの小森も怒るわな。偽装カップルつう献身をこんな形で返されてんだから。どう考えたって「お前は下僕止まり」宣言じゃねえか。恩を仇で返しているようなもんだろ。つーかマジで夏川の野郎は何がしてえのか全然わっかんねえ! だいたい小森も視線がどこか別の方向に向いているよう気がするし……んっ、なんだアレ?)


 小森の違和感に気が付いた高嶺は彼の視線の先を確認する。

 そこには他校生の女子生徒が女の子座りしていた。

(あア″ん? ありゃうちの制服じゃねえな……たしか夏川の彼氏と同じ――っ‼︎)


 電撃が全身に走ったような感覚に襲われる高嶺。

(待て待て待てっ‼︎ まったく根拠もない憶測だが……ひょっとしてこれとんでもねえ修羅場なんじゃねえか? いや情報が不足し過ぎてびっくりするぐらい全貌が見えねえけどよ⁉︎)


 恋のライバルが違和感を感じ取っていることなど気にも止めていない夏川。

(だ…駄目だまだ笑うな…。こらえるんだ…私は新世界小森くんの女神になる)

 勝利宣言をしたくてうずうずしていた。


(おいこらなんだその顔! 新世界の神になり損ねた主人公みたいになってんじゃねえよ! これ以上私を混乱させるなっての!)

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