第31話

 一方、女子陣営。

 まずは夏川雫から。

(これで翔太くんも私の魅力を再認識したはず。これからは時間をかけてゆっくり心酔させてあげるわ。本当はいますぐモノにしたいけど……いいわ高嶺さん。出遅れたことは認めてあげる。けど対局はまだ終わっていないわよ。これは言わばオセロ。最後に高嶺さんのアドバンテージを一気に裏返してあげる)


 彼女の強過ぎる闘志は視線に出てしまっていたようで、

(おいおいおいっ⁉︎ なんか敵意のこもった目でめっちゃ見てくんじゃねえか! 一体どういうつもりだ夏川のヤツ⁉︎ 小森なんかよりいい男を捕まえられるのよアピールか? いやそれも違うような……。クソッ、夏川の意図が全然読めねえぞ⁉︎)


 夏川雫の真意が読み切れず困惑する高嶺繭香。

 よもや本命である小森に己の魅力を認識させるため、実弟とカップルを装い嫉妬心を煽りに来た――なんて浮世離れした正解を導き出せるはずもなかった。


 夏川雫の暴走はまさにダミープラグを導入したエヴァ◯ゲリオンのごとく。

 彼女は肘で弟の横腹を突き合図を送る。

 夏川は今日のためにシナリオを作成していたのである。


 彼女はそれを完全に暗記するよう命令するとともに、その時々の演技まで指示していた。

(おいおいおいっ⁉︎ まさかあの台詞を本当に言わせるつもりかよ!)

 渋る大橋健吾。あれを放てばセカ◯ドインパクトが発生することは必死。


 しかしそんな弟に夏川雫は痺れを切らしていた。

 大橋健吾の足を踏みつけ煙草の火を消すように捻る。


(痛てえな、おい! 目的のためなら手段を問わねえってか⁉︎ ……わかった、わかった。やるだけやってやるよ! そのかわり後で泣きついてくんじゃねえぞ!)


「しっ、雫は俺のような男がふさわしい女だと思わないか?」

((ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎))


 その台詞は数いる生徒の中で小森翔太と泉天使にクリティカルヒットした。

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