第21話
小森 翔太
繭姉から打ち明けられた話は僕のド肝をぶち抜くものだった。
まさかここまで深刻なものだったなんて。
ぶっちゃけ繭姉の
というかめちゃくちゃ怖い。すごく怖い。
だって女の子に隠し撮りした写真を新居に送り付けるような頭のネジが外れたヤツだよ?
繭姉に彼氏なんか出来たら何をしでかすか分からないじゃないか。
下手すりゃ逆上して僕のことを襲ってくることだって十分考えられるわけで。
自分の身を考えたら繭姉のお願いは絶対に断るべきだったと思う。
でも、でもさ。あのときの繭姉だって同じ気持ちだったんじゃないかと思うんだ。
僕を助けに行けば当然彼女にも危害が及ぶ可能性があったわけで。
それでも繭姉は幼馴染というだけで僕の前に立った。立ってくれた。
なら今度は男の僕が繭姉の前に立たなくちゃ。
もちろん僕が非力で何の才能もない凡人だってことは自分が一番知っているよ?
けど幼い頃に助けてもらった初恋の相手が今度は僕にSOSを発しているんだ。
ここで手を差し伸べないで何が男だ。受けた恩も忘れて見て見ぬふりをするなんて出来ないよ。
だから僕はこうして柄にもなく自分の手には負えないものを背負うことにした。
☆
夏川 雫
少し席を離れ過ぎたかしら? 翔太くんたちの会話が全然聞こえないじゃない。
高嶺さんの大事な話が気になって仕方がなかった私は性懲りもなく彼女たちを尾行してしまう。
転校初日にも跡をつけてしまったし……これってもう立派なストーカーよね?
本当に私は何をしているのかしら? 彼に惚れてしまってからというもの自分の言動が信じられないわ。
けど居ても立っても居られないんだから仕方ないじゃない。
それが嫌なら責任を取りなさいよ翔太くん。
なんて不満を抱きながら彼らの様子を注意深く見守る。
断片的な会話だけでも聞き取ろうと耳をダンボにするのだけれど……。
あーもう! やっぱり聞こえないじゃない!
かと言ってこれ以上近づいたら私が跡をつけて盗み聞きしようとしていたことがバレちゃうし……。
諦めるべき状況の中、私は必死に頭をフル回転させる。
どうにかして翔太くんたちの会話を聞き取る方法はないかしら。
たぶん今人生で最も脳の無駄使いをしているわね。
良案を模索していると、彼らのテーブルに飲み物を届けるウェイトレスが目に入る。
――これだ!
「あの……少しいいかしら?」
「はい。どうされましたか」
ついさっき翔太くんの席に立ち寄ったウェイトレスを捕まえる。
歳は私よりも三、四歳上の女子大生といったところかしら。
彼女から情報を引き出すためには――、
「――あの、さっきあそこのテーブルに飲み物を届けていたわよね?」
「えっ、ええ……それがどうかされましたか? あっ、もしかしてお客様のお飲み物でしたか?」
違うわよ。
「いえそうじゃないの。それより彼らがどんな会話をしていたのか教えて欲しいのよ」
「はいっ?」
予想通り怪訝な表情になるウェイトレス。
私は構わず続ける。
「実はその……彼は私のこっ、恋人なのよ。なのにほら。ああして別の女と二人きりじゃない? 一体何を話しているのか気になるのよ」
「あぁ……そういうこと」
同じ女性ということもあり、私の意図をくみ取った様子を見せる。
敬語を忘れていることが何よりの証拠ね。
やがてウェイトレスは翔太くんを流し見たあと、そっと耳打ちするように、
「本当は客のプライバシーがあるからこういうことは言っちゃダメなんだけど――特別に、ね。私も詳しいことは分からないけど、ストーカーが許せないから付き合おうとか、なんとか。もしかして彼浮気をしようとしてるんじゃない?」
「えっ……?」
私はウェイトレスの言葉を耳にするや否や、目の前が真っ暗になった。
それはもう松崎し◯るより真っ黒に。いや、別にふざけているわけじゃないんだけど。
そんな訳も分からないことが浮かぶほどには動転してしまっていた。
だってストーカーって……私のことよね⁉︎
えっ、えっ、嘘⁉︎
まさかこうしてストーキングしていることがバレているってこと⁉︎ しかもそれを許せないから付き合おうって……それってもう完璧に――。
私が呆然としている間も話しかけてくるウェイトレス。
正直彼女の言葉など耳に入ってこなかった。
だって私は人生で初めて――。
――失恋してしまったんだから。
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