第20話

「ねぇ翔ちゃん。今日の放課後空いてるかな? 大事な話があるの」


((((大事な話⁉︎))))


 今ではすっかり話題の中心になってしまった小森翔太。

 クラスメイトは高嶺繭香の一挙一動に目が離せない。


 もちろんこの誘いが気になるのは――、


(えっ……大事な話⁉︎)


 そう。夏川雫である。彼女もまた高嶺繭香の言動が気になって仕方がない様子。


(……そういえば高嶺さんは告白の返事を待っていたはず……ということはまさかその督促ってことかしら⁉︎ どっ、どうしよう。もしも翔太くんが了解してしまったら――)


 熟考する夏川。


(――こういうときどうすればいいのかしら。やっぱり妨害……いや恋人でもない私がそれをしたら終わりよね。あーもう、わからない! こういうとき健吾を召喚できれば……とっ、とにかく二人を尾行しないと!)


 ☆


 高嶺 繭香


 私は小森を喫茶店に誘うことにした。

 いくらなんでも教室でストーカーの話をするわけにはいかねえからな。

 厄介なのは夏川の野郎だ。当然とばかりに跡をつけてきやがった。

 だがさすがに身バレを気にしてか、離れた席に座ってやがる。

 

 まっ、あれだけ離れてりゃ会話の内容も聞こえねえだろ。

 これから偽装カップルをお願いするつもりだが、それが夏川に筒抜けになるのは避けてえからな。

 本当は密室が良かったんだが、小森んだと親に盗み聞きされる可能性もある。かといって私の部屋にあげるのも論外。仕方ねえか。


「それで繭姉、大事な話って?」

 心なしか緊張した面持ちの小森。

 まっ、告白された相手から『大事な話がある』と言われたらこうなるか。


 私はさっそく本題に入ることにした。

「実は翔ちゃんにお願いしたいことが……」

「お願いしたいこと?」


「うん。実は私ストーカーの被害にあっているの」

 小森の表情が緊張から驚愕に変わる。

「えっ、ええっ⁉︎ ストーカーってどういうこと繭姉⁉︎」


「私が転校してきた理由はね――ストーカーから逃げるためなの」

 ここから私は寝る前に考えた設定を小森に告げる。

 要約するとこうだ。


 ・私は誰に対しても分け隔てなく接する


 ・それは女子からキモがられている陰キャも例外じゃない


 ・だからこそ口をきいただけで『高嶺さんは俺のこと好きかも』と勘違いするヤツがいる


 ・普通なら告白を断った時点で諦めるが、そいつは何度振っても迫ってくる


 ・そしてストーカーになった


 ・両親に相談の上、転校したが悪夢は終わらない


 ・隠し撮りされた写真が新居に届く


 ・もちろんすぐに警察に訴えたが、私の身に危害が加わらねえと動けねえらしい


 ・高嶺繭香を諦めさせるために小森には恋人のふりをして欲しい


 まっ、さすがにこのまま告げるわけにもいかねえから言葉は選ばせてもらったがな。

 ひと通り経緯を説明した私は、

「だからお願い。私と?」


 ぶっちゃけ難しいのはこっからだな。

 なにせ私は小森にとってストーカーの被害にあっている女になったわけだ。

 どえらい爆弾だろう。


 となると色仕掛けか。

 両手を握って、目に涙を浮かべて上目遣いでもすりゃ一発だろ。

 んなことを考えていると、


「うん! そういうことならまかしてよ!」

「はっ?」

 想定外の即答におもわず素が飛び出してしまう私。


 その様子にどこか不思議な表情をしてみせる小森。

 いやいやいや、意味不明なのはこっちだっての。お前ちゃんと意味分かってんのか?

「えっ……いいの?」


「そんなの当然じゃん! だって一番苦しんでいるのは繭姉なんでしょ? むしろ僕で良ければ大歓迎だよ! それに許せないじゃん。ストーカーって立派な犯罪なんだよ」

 いやだから犯罪行為だからこそ自分にも危害が及ぶかも、とか考えるだろ普通。


 なに即答してんだよ。

 いや本当ちょっと待って……こんな、こんな返事一つで――。

 むろんこの程度で小森モブに惚れたりはしねえが……。


 だがまあなんだ。違う意味でも夏川に渡したくねえと思っちまった自分がいることは認めてやるよ。

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