第22話

 小森 翔太


 繭姉の偽彼氏フェイクをするようになってから三日。

 今のところストーカーが逆上してくる気配はない。

 むしろ夏川さんの異変の方が気になっていた。


 今日も体調不良で休み、か……。どうしたんだろ。重たい病気とかじゃなきゃいいけど。

「小森。悪いが進路希望調査票これを夏川に届けてもらえるか。このあと職員会議があってな。手が離せないんだよ」

「えっ、あっ、はい……」


 担任の先生から雑用をお願いされる僕。

 まっ、うちのクラスで帰宅部は僕ぐらいだし、夏川さんの家も遠いわけじゃない。

 偽彼氏フェイクをしていた三ヶ月間に何度か送らせてもらったし、住所も知っている。


 えっと、やっぱりこういうときお見舞いに果物でも買って行った方がいいよね?



 高嶺 繭香


 チッ。夏川のヤツ。どんだけタイミング悪いんだよ。

 せっかく小森と偽装カップルになったってのに見せつけれねえじゃねえか!

 これでもかってぐらいイチャイチャ(の演技)して精神攻撃を食らわせるつもりだったのに……とんだ肩すかしだ。


 いや、それとも逆に私たちの関係を勘付かれたか? 

 だとしたらここ最近休みが続いている理由にも納得がいく。

 意中の相手が別の女とイチャついているところをわざわざ見に行くバカはいねえからな。


 仕方ねえ。あとで小森に夏川の様子を聞いておくか。

「ねぇ翔ちゃん。私は陸上部部活があるからお見舞いに行けないけど後で夏川さんの様子を教えてね」


 大橋 健吾


 放課後。

 俺は二人の女から連絡をもらっていた。

 一人は姉だ。


 しかもメールの文面が、

『生きる意味を見出せない』『死にたい』『終わった……』なんて物騒なものばかり。

 おいおいおい……一体全体どうしたってんだ。


 あの姉がメンヘラの構ってちゃんになってやがるじゃねえか。

 混乱する俺をよそに最新のメッセージが届く。

『翔太くんに振られた』


 ……ああ。そういうこと。だから死にたい――って、ええっ⁉︎

 振られた⁉︎ あの美人な姉が⁉︎ ありえねえだろ!

 だって家族の贔屓目を抜きにしても夏川雫のクオリティは激高だぜ?


 ぶっちゃけ小森なんざにもったいねえレベルの美少女だ!

 にも拘わらず小森モブに振られただぁっ⁉︎ アホかっ!

 一体誰がそんなバカげた話を信じられるってんだ!


 俺は叫びそうになる気持ちをグッとこらえてメッセージを返信する。

『今から家に行くから変な気を起こすんじゃねえぞ!』


『大丈夫よ。健吾と翔太くんを殺して私は仕事に生きるから』


 変な気を起こしてんじゃねえか⁉︎ つーかやっぱり俺と小森が殺されるのかよ⁉︎

 おめえが死ねよ! いや、死んじゃダメなんだが……ああっ、もう!


 俺は連絡をもらっていたもう一人の女、いずみ天使てんしのメッセージを確認する。


『健吾さん良ければ今日も一緒に下校しませんか?』


 天使は俺が今付き合っている彼女だ。

 どうやら今日も下校を誘ってくれたようだ。

 クソッ。一緒に帰りてえ、一緒に帰りてえんだが……。


 俺は泣く泣く彼女に返信し姉の待つアパートに駆けつけることにした。

『悪い。急用があって今日は一緒に帰れねえ。また明日な』


 この選択が予想を遥かに超えた展開を招く原因になるわけだが……もちろんこのとき俺が知る由もねえよな?

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