第17話

 朝比奈 彩


 体育です。

 走高跳でバーの高さを競い合っています。

 私を含むモブキャラ(クラスの皆さんごめんなさい!)はすでに脱落。


 現在、新記録を競い合っているのは夏川さんと高嶺さんです。

 ここまでくると神の存在を疑いたくなりますね。

 美少女でスタイル抜群。その上スポーツまで万能。


 あれ、天は二物を与えず……?


 というわけで、お二人の会話を盗み聞きしてみましょう。

「翔ちゃんって運動が苦手じゃない?」

「……どうしてここで小森くんの名前が出てくるのかしら。理解に苦しむのだけれど」


 おっと。思いのほかバチバチです。


「あれ。もしかして夏川さんは妄想しない? とか」

「⁉︎」


 売り言葉に顔を赤く染める夏川さん。

 これが『怒っている』のか『照れているのか』は区別がつきませんが――、


「にゃにを言ってるにゃ」


 ――どうやら『照れ』です。意外です。

 しかも夏川さんの正体は猫娘でした。


「将来産まれてくる子どものことを考えたらさ、運動が苦手な翔ちゃんには得意な女の子がパートナーになるべきだと思わない?」


「……安い挑発ね」

「そうかな。私は真剣だよ? 翔ちゃんとの将来について」


 ピキッ。


 氷にヒビが入ったような音が聞こえたのは気のせいでしょうか。

 

「……今の論理だと運動神経が良い女が彼のパートナーにふさわしいということかしら」

「うん」

「だとしたらそれは私だわ」


「えっ?」

「だって高嶺さんよりも私の方が運動が出来るもの」

 

「は?」

「はい?」

「「……」」


 おっと、デジャヴでしょうか。

 似たような光景をつい先ほども目撃したような記憶があるのですが……。

 嫌な汗が止まりません。


「じゃあ試してみる? どっちが高く跳べるかをさ」

「望むところよ」


 ――バチバチッ‼︎


 不良よろしく互いにガンを飛ばし、睨み合う二人。

 夏川さんの背後には大迫力の黒龍が、高嶺さんの背後には恐ろしい金色の虎が浮かび上がっています。


 なんというかさっきから見ていられません。空気がピリついてます。

 絶対に負けられない女の闘いみたいな空気が充満しています。


 ちなみにクラスメイトは断片的にしか聞こえておらず、状況を理解できていない様子。

 私は他人よりも耳が良く「やーいナメ○ク星人」とからかわれ「ピッ○ロじゃねーし」と返すのが鉄板です。

 我ながら嫌すぎるギャグですけど。なんかお二人と天と地ほど差がありません? どう思います?


 そんなわけでお二人のレベルはどんどん高いものに。

 夏川さんも高嶺さんも背面飛びで躰を大きく反るため、豊満な胸が強調されています。

 高嶺さんに限っては体操服をズボンにインしてないため、黄色いブラジャーがチラチラ。


 そのおかげで二人が跳ぶと男子は鼻の下を伸ばし「「「「おおっ〜!」」」」と感動の声をあげます……ほんと馬鹿な生き物ですね。


 とはいえ、女の私から見ても夏川さんと高嶺さんは美巨乳です。

 触れたことはありませんがマシュマロのような弾力に違いありません。


 さて、走高跳による対決は最終局面を迎えました。

 結果から申し上げるとこの競技を制したのは高嶺さんでした。

 これは後から分かったことですが高嶺さんは走高跳で全国大会に出場したこともあるそうです。


 それもすごいですが、夏川さんは走高跳が初めてとのことでした。

 にも拘らずギリギリまで高嶺さんを追い詰めました。脱帽です。彼女の才能には驚きを隠せません。


 膝から崩れ落ちる夏川さんにキラよろしく真っ黒な笑みを浮かべる高嶺さん。

 おっと。あまりに悪い表情にちょっと寒気が走りましたよ私。


「残念だったね夏川さん」

「ぐっ……うっ、ぐうぅぅぅぅっ……!」

 まるで仕事に人生を賭けてきたサラリーマンが出世競争に負けたようです。

 ……えっと、ごめんなさい。きっと彼女たちにとってはシリアスな場面なのでしょうけど、正直ついて行けません。

「……次は覚えてなさいよ」


 敗北の苦汁に顔をしかめ、ありきたりな捨て台詞を吐いた夏川さんでしたが、雪辱を果たすときは意外にも早く訪れました。

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