第16話

 朝比奈あさひな あや


 私の名前は朝比奈彩。桜ノ宮高校で学級委員長をしています。

 外見は黒髪、三つ編み、メガネと地味め。

 成績は上の中。スポーツはやや苦手。


 どこにでもいる委員長だと思います。

 さて、そんな私には悩みがありまして。

 夏川雫さんと高嶺繭香の関係です。


 彼女たちはそれぞれ違った魅力があります。

 高嶺さんは転校して来たばかりですが、明るい性格と美貌から瞬く間に女子ヒエラルキーのトップに。

 大人しそうな言動ですが、最先端のファッションや美容に詳しく、ゆるふわ系のギャルと表現するのが適切でしょう。


 すっぴんでも美しい顔を化粧で磨き上げ、校則違反ギリギリを攻めた制服の着崩しなどは同属性の女子を惹きつけたようです。

 その証拠に彼女の周りにはトップクラスの女子生徒が取り囲んでいます。


 それに対して夏川雫さんは独りです。

 いえ、外見は高嶺さんに劣らない――というより優っていると思うのですが人付き合いが得意ではなく、お一人で過ごされていました。

 そんな彼女がクラスでパッとしない(私が言うのもなんですが)小森翔太さんとお付き合いを始められたときは驚きました。

 メガネにヒビが走ったほどです。


 さて話を戻しましょう。

 私の悩みは夏川雫さんと高嶺繭香さんが緊張を走らせることです。

 例を挙げましょうか。


 いま私は教室にいるのですが……って、ああっ! これはマズい! これはマズいですよ⁉︎


 高嶺さんが教室から出ようとした瞬間、廊下側に夏川さんがいるではありませんか!


「えっと。いつまでそこに立っているのかしら高嶺さん。邪魔なのだけれど」

「それは私の台詞だと思うな。夏川さんこそいつまでぼーっと突っ立てるの? どいて欲しいのはこっちだよ」


 皆さん、私の悩みを理解していただけたでしょうか?

 ええ。そうなんです。このお二人、相性が悪いのです。


 まるで『意中の相手が被った』ような仲の悪さ。

 夏川さんにとって小森さんは下僕で恋愛感情はないはずなんですが……。

 あっ、そう言えば先日、小森さんは彼女たちからお弁当を作ってもらったのですが、煮え切らない彼は保健室へと運ばれました。


 事の発端は卵焼きの味付けは甘い派か辛い派を問われたことなのですが、小森さんは「疲れているときは甘い方だよね。あっ、でも夕食にはしょっぱい方が嬉しいかも」などとどっち付かずの発言をしました。

 おかげで味比べは終わることなくお腹の限界が先に来ました。

 あの胃に穴が開くような空気で正直に答えるのは困難だったでしょう。同情する余地も十分あります。

 しかし私たち女子から言わしてもらえれば小森さんの言動は『ヘタレチキン野郎』でした。


 おっと失礼。口が滑りました。


 とまぁ、小森くんを引き金に他愛もないことで緊張が走るようになりました。

 凍てつく教室はまさに氷河時代アイスエイジ。ヒエヒエの実でも食したのでしょうか。

 修羅場に巻き込まれる側としてはスケスケの実が欲しいのですが。


 なにせ夏川さんと高嶺さんが発する威圧に泡を吹き出す者もいるぐらいですから。

 覇気を放つなら海賊にお願いしたいと思う今日この頃です。

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