第2話

「スズ〜? 今日の昼休み暇? 一緒にご飯食べよ?」

「うん。そもそも私たち部活に入ってないからお昼休みって暇だよね。次の授業が移動の時ぐらいしか忙しくないよね?」

「うん、知ってた。今日のお昼はスズと一緒に中庭に行こうと思って」

「中庭……? ってどこだっけ?」

「えっとね、正門から入って左がグラウンド、真っ直ぐ進んだら今いる第一校舎。っていうのは知ってるよね?」

「うん」

「第一校舎から見てグラウンドの反対側、正門から右側の方に特別教室棟があってさらにその向こうに部室棟があるんだけど、知ってる?」

「えっと、行ったことないから存在だけ知ってるって感じかなぁ」

「まぁそうだよね。特別教室棟で授業やる科目取ってないもんね。それで、その特別教室棟と部室棟の間に中庭があって、そこには大きな桜の木があって今の時期綺麗なんだって〜。スズと一緒にみたいな〜って思ってたんだ〜。買っといてよかった〜」

「え? 買う?」

「あ、えっとね、その中庭にはベンチが一つしかないんだって。だから数年前から生徒会が整理券売るようにしたんだって。桜が綺麗だからってみんな集まって大変なるみたいで。ちなみに一日三回、朝・昼・放課後の券があって、買えるのはそれぞれ一組だけ! 値段はなんとオークション‼︎」

「えぇっ⁉︎ それって学校的に良いの?」

「先生も黙認してるみたい。ちなみに一番人気が放課後、次が朝。授業と授業の間だから案外人気ないのが昼休み。スズと一緒に桜をみたくて早期特典一割引で買っておいたのだ〜」

 モモのいつものブイサイン。決まってるし、可愛いけど……

「えっと……半分払う?」

「いいのいいの。私が、買ったの! スズは素直にプレゼントされてください‼︎」

「あ、うん、わかった。ありがとう」

 そう! それ! スズのその笑顔が見たかったの‼︎ スズが桜を見てどんな風に喜んでくれるか考えているとあっという間にお昼休みになっちゃいました。

「じゃあ、行こっか?」

「うん」


「中庭まではちょっと遠くて、まず第一校舎の端まで行って渡り廊下で特別教室棟まで行く。そのまま突っ切ったら中庭に行けるみたい」

 歩きながらモモが中庭までの行き方を教えてくれました。

「行けるみたいって……」

「大丈夫‼︎ 場所はわかってるから!」

 ちょっと不安です……


「ほら、着いたよ」

「わぁ。きれい」

「だね〜。一番きれいな時期かもね」

 そのままずっと見ていられるような桜色の空が、そこに広がっていました。

 「あ、でもお昼は一時間しかないからご飯も食べなきゃね」

「そうだね〜。お昼はちょっとせわしなかったかな? でも、放課後は……高いんだよね……」

「えっ、あ、いや、そうじゃなくて……」

「うん。分かってる。ベンチは桜の真正面だよ」

 スズが優しいのも桜が好きなのも知ってますとも。


 ベンチに座ると目の前全部が桜で、圧倒されてしまいそうでした。

 ご飯を食べていても目が離せない、まるで映画館で映画を見ているかのようでした。

 たまに吹く風が桜の花びらを私たちの座っているベンチまで運んできてくれるのです。


「あ、予鈴。教室戻らないと」

 残念だけど戻らなきゃ。今度は私がモモを誘えたら良いなぁ。

「ね、スズ。次の授業さぼっちゃおうか?」

 え?

 えええええ⁉︎

 いや、でも、誰かに見つかちゃったりとか、先生に見つかっちゃったりしたら言い訳はできないわけで、たくさん怒られて宿題たくさん出されちゃったりとか。

「大丈夫! 次の授業は自習で先生来ないんだって。部室棟に人が来るわけないし、特別部室棟からはこのベンチはうまい具合に死角になってるの。桜が目立っていいカモフラになるしね。だから、ね?」

「うん」

 こんなに綺麗な桜を見れて嬉しいし、なによりモモと一緒なのがとっても嬉しい。


「私、この場所好きだなぁ」

「気に入った?」

「うん。でもこの場所人気なんだよね? また来るのはちょっと大変かなぁ?」

「う〜ん。実をいうと桜の花が散っちゃうとほとんど人が来ないみたいなんだ。だから誰でも来れるし滅多に人には合わないって。冬は特に」

「あはは、寒そうだもんね」

「夏ぐらいにまた来ようか?」

「うんっ」

 モモと一緒ならいつでも楽しい。

 高校生活始まっていろいろと不安もあったけど、とっても楽しいな。




 自習の授業が終わってから、私たちは教室に戻ってきました。

「あ! モモと、友山さん。おかえり〜」

 私にとってはよく知らない人が出迎えてくれました。モモを。

 私には会話に混じることもできないので先に席に戻っておくことにしました。会話は聞こえるけど。

「たっだいま〜。話には聞いてたけど想像より凄かった! あの桜」

「でしょ〜。私もまた行きたいな〜」

「ついこの前行ったんでしょ? それに今から整理券取っても散ってるかもよ? 結構風で散ってたけどそれも綺麗だった」

「それも見たかった〜。私が行ったの満開ちょい前だったから」

「その時期が一番良いんだけどね〜。あ、そだ。抜けてた授業どうだった?」

「あー、えっとね、メッチャ課題出た。流石に授業時間中に終わらないだろうって思ってるんだろうね。残りは週末にやって週明けに提出って」

「え? 先生きたの?」

「いんや〜来てない来てない。プリントに書いてあるし昼休みにプリント持ってきた先生も言ってた。そして机の上にあるのがその課題です」


 私の机の上にも置いてあったのでモモより先に現実を突きつけられて青ざめました……


「これは……」

「『主要五科目対応基礎問題集 全十五頁』と書いてあります」

「いや読めるけど……なぜ漢字を乱用したのか……表紙だけでやる気がなくなる」

「中身は一科目三ページの基礎問題集で速い人は授業時間中に十ページは終わったって。ちなみに私は四ページ……」

「じゃあ私もそのくらいかかるじゃん! 授業時間の三倍以上かかるの? これ」


 モモの言うままにしてると楽しいけどあとが大変、かも?

 そういえば私も表紙しか見てなかったな。難易度は……本当に基礎問題ばっかり。簡単そうで良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る