異世界でシルバーアクセ売ったら、メッチャ儲かった。

村田ミチヨシ

Ⅰ 金欠なんで、異世界でシルバーアクセ売った

1 さらば、俺の大切なコレクション

 嘘だろ……?

 これが約1万ゴールドもするなんて。

 いや、日本円で幾らか知らんけど。

 やっぱりシルバーアクセ持ってきて正解だったわ。

 これで俺も億万長者だな。

 早速、食い物とか服とか揃えるか。

 あと家も欲しいわー。

 いや、家は借りた方が効率的か。

 まだ何があるか分からないしな。

 本当に助かったわ。

 これだけの金があれば、何でもできるぞ。

 もう空腹の問題は過ぎ去ったんだ。

 でも、最大の問題は、元の世界に帰る方法だけどな!


       ◇


 俺がこの訳の分からない世界に来てから、どれくらい経過したことだろうか。

 日本の家族、友人、恋人、仕事仲間たちよ。

 元気にしているだろうか。

 御覧の通り、俺こと竜崎一郎は、いわゆる“異世界転移”というやつで、日本から別世界へと降り立った。

 正確には、俺の部屋丸ごと転移してきた訳だが。

 それで、俺を異世界に呼んだ張本人──どこかの国の高名な魔術師たちは、何か別の大きな目的があったらしい。

 「魔王討伐」とか「お前は勇者だ」とかいうあれか?

 だったら、最初から豪華な王宮とか神殿の中に呼べよ。

 どうして訳の分からない、辺鄙な田舎まで、俺の部屋丸ごと飛ばされてんだよ。

 幸い、俺の部屋の中には、長年コレクションしてきた大切なアクセサリー類、ファッション・アイテム、家具などが大量に残されていた。

 これらは、俺が血眼になって働いて、何年も掛けて、コツコツ集めてきたものだ。

 車?家?これはそんなものよりも遥かに大事だった。

 言うなれば、俺の生きてきた証。

 人生のパートナー、命の結晶だった。

 うん、臭過ぎるのは分かっている。

 言わないと伝わらないこともあるだろ。

 でも、最初から意味不明の場所に飛ばされて、手元に金がなかったら、売るしかないよね?

 さらば、俺の大切なコレクションたちよ。


       ◇


 こうして、俺は大切にしてきたコレクションを売って、一財産得ることができた。

 どうして、日本のシルバーアクセが高く売れたのかは、後になって知ることだが、これで俺の第二の人生は救われたのだ。

 まだ手元には、大量のシルバーアクセのコレクションが残っている。

 その数は極めて多い。

 幾ら売っても、売り切れないくらいだ。

 この時ばかりは、俺の収集癖というか、過去の行いを褒めたい気分だった。

 取り敢えず、最初に辿り着いたトークタウンという名の町は、狭い場所だったが、行き交う人々の数は多く、主に商人たちで賑わっていた。

 最初、俺はそこら中の店に割って入り、持っていた金目のものを殆ど売るつもりだった。

 伸縮性のある長ズボンのポケット一杯に、大事なシルバーアクセを詰め込んで、この町まで遥々歩いてきた訳だ。

 売れるなら、とにかく売って、ここでの生活を安定させたかった。

 俺の部屋が転移した場所から、トークタウンの町までは、そう遠くはなかった。

 歩いて行ける距離だったことを、本当に嬉しく思う。

 以前から、俺には体力というものがなかった。

 手先は器用だったが、運動関係は丸っきり駄目。

 でも、結局はシルバーアクセを一つ売るだけで、必要な資金は全て手に入った。

 これには、俺も驚くしかなかった。

 ここで売ったのは、円形のシルバーリング。

 模様のない、シンプルなデザインの“シルバー925”製のリングだ。

 こういうものは、幾らでも持っていた。

 元の日本での相場は、主にオークションやフリマなどで、一つ約1000円くらいだろう。

 全国各地の古着屋でも、たまにショーケースに入って売っている、最も基本的なシルバーリングだ。

 それが約1万ゴールドで売れた。

 買取を依頼した店の店主から、大量の紙幣や小銭を貰ったので、見るからに価値があることは明白だった。

 袋一杯になったこの世界の金を持って、少し前まで、乞食のようだった俺は、ただひたすらに贅沢な気分を味わった。

 俺は何と幸運な人間なんだろう。

 素直にそう思った。

 ん?ちょっと待てよ。

 異世界に飛ばされてる時点で、全然“幸運”じゃないけどな!

 とにかく、シルバーアクセを売って稼いだ金で、家を借りて、もう少し町の様子を見ることにした。

 聞く話によると、どこかの大きな国の首都のような場所で、大掛かりな召喚の儀式があったらしい。

 それで、結果は見事に失敗。

 儀式の影響で、巨大な神殿は吹っ飛んだそうだ。

 良い気味だな。

 俺を異世界に呼んでおいて、変なところに召喚するからだ。

 今日は借りた家で眠るとして、明日は部屋から荷物を移動させないとな。

 辺鄙な田舎に飛ばされてきたし、盗る奴なんて誰もいないと思うが。

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