パイロット版「これがいつもの冒険だ!」 Part.5

 タカト達のおよそ十倍はあろうかというその巨体の胸部装甲には、狼の顔のようなシンボルがでかでかと描かれている。更に人型ではあるが、その両腕はそれぞれが身体と同じくらいの太さになっている。

「やっぱり、『ヤガロウ団』!」

 タカト達は胸部のシンボルに嫌という程見覚えがあった、というより忘れられるはずがなかった。

 『ヤガロウ団』、記憶にこびりついているその名を指摘した時、巨大ロボの胸部が開き、中から獣人三人組がロボと同じ様に仁王立ちで現れた。

 向かって右側には狐の獣人の男、左側には狸の獣人の女、そして中央には狼の獣人の女が立っている。

「呼ばれていたからやって来る!」

「呼ばれてなくてもやって来る~」

「手に入れるのさ、夢の星!」

「鋼の貴公子、グレープ!」

「ぽんぽこガール、ラクーン」

「孤高の餓狼、グリム!」

『我ら、銀河海賊ヤガロウ団!!』

 瞬間、三人の後ろから光が放たれた――ように見えた。次々と決め台詞を叫びながらポーズを切り替える様は、タカト達のそれと同類である。実際、エルフィネアが先程と同様に呆れ顔でヤガロウ団を見つめていた。

「相変わらず俺達の事を追いかけてきたのか!」

「アタシらは狙った獲物を逃さない主義でねぇ、アンタ達が集めてる『鱗』を手に入れるまであきらめないのさ」

「しつこい女は嫌われるぞ」

「嫌われ者上等! 行くよ、お前達!」

『ハイサー!』

 グリムの掛け声にグレープとラクーンが敬礼にも似たポーズと共に返事すると、ロボの胸部が閉じられた。

「ヤガロウマシン十三号機『ゴルスペル』!」

 グリムがロボの名を高らかに呼ぶと同時に、ゴルスペルと称されたそのロボが両腕を振り上げ、コロニードームを叩き壊そうとする。

「そこまでだ!」

 だがその両腕は振り下ろされる前に、上空から音速を超えて飛んできた、ゴルスペルの三分の二はあろうかという巨大な剣によって弾かれる。

 両腕からの衝撃でゴルスペルはよろけるが、踏みとどまって剣が飛んできた方へ振り向いた。

 ゴルスペルの視線の先には、タカト達が乗っていた宇宙艦と一機の青く輝く戦闘機がこちらに向かって飛来している光景があった。

「チェンジ!」

 戦闘機から掛け声が発せられた瞬間、戦闘機は機体を変形させて人型のロボットとなった。

 その青いロボは速度を保ったままゴルスペルの眼前を通り過ぎ、ゴルスペルの両腕を弾いてから地面に突き刺さっていた剣を両手で引き抜き、正眼に構える。

 剣に対して青いロボのサイズは小さく、ゴルスペルと比較しても半分ほどの大きさしかない。

「ヤガロウ団、貴様達はこの私、『リューガ』が相手をしよう!」

 青いロボはリューガと名乗り、ゴルスペルに向かって突撃する。ゴルスペルは大きく横に跳び、リューガの突撃を回避した。

「いつものお邪魔騎士が! グレープ、今回のアレだよ!」

「ハイサー! 今回のザックリマシンズは、タイプ『トロワ』で行くぜ!」

 そう言いながらグレープがコンソールに文字を入力すると、ゴルスペルのバックパックから数十機もの小型の拳銃の様なメカが飛び出した。

 拳銃メカは空中を飛行し、リューガを囲うと一斉にレーザーを発射する。

「ヘキサフィールズ!」

 それに対しリューガは自身の周囲に多数の正六角形状のエネルギーフィールドを展開、ピンポイントでレーザーを防いだ。

 だが拳銃メカはレーザーの掃射を途切れさせる事なく撃ち続けており、リューガはフィールドの操作に手一杯で身動きが取れなくなる。

「ほらほらどうした、威勢がいいのは最初だけかい?」

「その言葉、そっくりあなた達に返すわ!」

 そこに少女特有のソプラノな声が響き渡り、拳銃メカ数機が上空から何かの突撃を受けて破壊された。

 拳銃メカを破壊し、地面に勢いよく着地したのは、ゴルスペルより頭一つ小さい程の真紅に輝くロボだった。

 真紅のロボはすかさず格闘の構えを取る。その構えは先程エルフィネアが取っていたものと全く同じだ。

「こっちも出てきたね、スターリットのお姫様!」

「『星雲』という力がこの手にあるから、自分の事は自分で片を付けるのがスターリットの教えの一つよ!」

 グリムの指摘通り、星雲と呼ばれた真紅のロボに搭乗しているのはエルフィネアである。

 星雲の操縦はエルフィネアの周囲にある外骨格の様な機械によるモーショントレースシステムであり、エルフィネアの動作をダイレクトに星雲の動作にする。

 エルフィネアの様に、格闘術を身に付けている者のために用意された操縦法だ。

「グレープ、ザックリマシンズはお姫様の相手をしてやりな! ラクーン、こっちはお邪魔騎士を潰すよ!」

『ハイサー!』

 グリムの指示通りに、グレープはコンソールの操作で拳銃メカの狙いをリューガから星雲に変更させ、ラクーンはゴルスペルをリューガに向かわせる。

「おっと、だったらこっちも本気でやらせてもらう!」

 そう宣言したのは、いつの間にかリューガの頭の上に立っていたタカトだった。

「こっちは任せて、タカトはやっちゃいなさい!」

 星雲の拳で拳銃メカを次々と破壊しながら、タカトに指示を出すエルフィネア。

「仰せのままに、姫様! 行くぞ、リューガ! 『人機一体』だ!」

「了解!」

『人機一体!!』

 タカトとリューガの声が重なった瞬間、タカトはジャンプしてリューガから飛び降りる。タカトがリューガの胸部まで落ちた時、リューガの胸部に吸い込まれた。

「転送、『超銀竜』!!」

 リューガが掛け声と共に右手を上空にかざすと、リューガの真上に赤と銀で彩られた、胴の長い機械の竜が出現した。

 超銀竜と呼ばれた機械の竜は、一度大きく咆哮するとその身を前後二つに分離させ、変形して胸部と頭部が無い人型となる。

 それを見届けたリューガは跳躍し、頭だけ突き出たブロック状に変形して、超銀竜が変形した人型の胸部に合体した。

 そしてリューガの頭部に兜が覆い被さり、フェイスガードが顔を覆う。それが完了の合図であり、合体したリューガは空中で両手を腰の位置に引いた構えを取って名乗りを上げた。

「超銀リューガ、見参!!」

 リューガ改め超銀リューガは、地上にゆっくりと降り立つと先程の剣を再び両手で持って構える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る