パイロット版「これがいつもの冒険だ!」 Part.4

 夕食を味わい、旅の疲れからかタカト達は部屋に入るとすぐに就寝した。

 さすがに一人に一つずつ部屋を割り当てる事は出来なかったため、男女で分かれて二つの部屋を使っていた――スフラはどうやら女性扱いだったらしく、エルフィネアと同じ部屋で寝ている。部屋にベッドが複数あるので、さすがにベッドは分けていた。

 そのエルフィネアとスフラが眠っている部屋の扉が、静かに開かれた。二人は眠ったままだ。

 扉の隙間から細い管が差し込まれ、管がわずかに震えたかと思うと微小な音を立てつつ無色の気体を吹き出し始めた。毒ガスか催眠ガスか、いずれにせよエルフィネア達を完全に無力化するための気体が部屋に広がりつつある。

(あと三十秒――)

 扉の外にいた、全身黒ずくめのスーツを着た男が腕時計で時間を計っていた、その次の瞬間だった。

「ぐぼおっ!?」

 突如扉が激しい音を立てて破裂し、男もろとも勢いよく吹き飛んだ。

「乙女の部屋に侵入しようだなんて、不躾な人ね」

 扉のあった場所には、エルフィネアが昼間の服装のまま右手を突き出す構えを取っていた。その後ろには腕を組んで仁王立ちしているスフラの姿もある。

「夜這いだなんて、例えミッツマンが許しても、マデラックスが許さないよ」

「誰よ、その二人」

 スフラの啖呵に淡々とツッコミを入れるエルフィネア。先程まで暗殺されかかり、それを文字通り吹き飛ばした様子にはとても見えない。

「何、だ……」

「残念だが、お前達の企みは全てお見通しだ!」

 真夜中の豪邸に、高らかな宣告が響き渡る。

「な、何だ、何が起こった!?」

 驚いた様子のヤージマスが部屋から飛び出てきて廊下を見回す。そこで発見したのは、廊下の窓から差し込んでいる衛星の光を背中に浴びているタカトとライヤの姿だった。

「行くぜ、ライヤ!」

「承知!」

 タカトとライヤが声を掛け合うと、同時に異なるポーズを取り始める。

「超銀河変身!!」

「着装!!」

 そしてポーズを切り替えながら異なる掛け声を発した瞬間、二人がそれぞれ光に包まれたかと思うと一瞬で姿が変わっていた。

 タカトは白地のタイツの上から、関節部と上半身に赤い装甲を纏い、頭は炎の様なシルエットのヘルメットを着けた姿になり、ライヤはスカイブルーの手甲と口元を覆う形で巻かれた真紅のマフラーが追加されている。

「な、何者だ、貴様ら!?」

「超銀河勇者! ソルブレイザー!!」

「流星忍者、レイジライヤー!!」

 変身した二人が、それぞれ高らかに名乗りを上げる。

「な、何だ、それは!?」

 理解の範疇を超えている状況に、ヤージマスは混乱するしかなかった。

 大の大人が突如子供番組に出てくるヒーローのような姿になり、見せつけるように恥ずかしげもなくダサい異名を名乗る。これで混乱するなという方が難しい。

 だがその一方で、スフラは歓声を上げながら拍手しており、エルフィネアは呆れたような表情で二人を見つめている。二人のその姿を何度も見てきて慣れた故のリアクションだろう。

「ジフク・ゴ・ヤージマス! お前が自分のコレクションを渡すように見せかけて、俺達を始末して何もかも奪おうと企んでいたのはわかっていた!」

「それだけではない。貴様がこれまでに行ってきた数多の悪事、全ての記録を入手した」

「い、いつの間に……!?」

 自分の企みが見抜かれていた事だけでなく、これまでの所業すら知られてしまった事に驚くヤージマス。

「さあ観念するんだ!」

「ぐ……ええい、ここで貴様らを消せば同じ事! 行け!」

 半ばやけくそでヤージマスが号令を出すと同時に、複数の部屋から黒ずくめの男達が現れてタカト達にアサルトライフルを向けた。

「遅い!」

 だがその数瞬前にライヤが駆け出し、一瞬で男達の銃を斬り裂いた。

「じ、銃を斬っただと!?」

「拙者の刀に、斬れぬもの無し」

「ま、まだだ!」

 男達は役に立たなくなった銃を捨て、ナイフを取り出してタカト達に襲いかかった。

「そんなもの、俺達には効かない!」

 だがタカトはナイフをかわしつつ、男達にパンチを浴びせる。しかもいつの間にか、その拳は鈍色に光る手甲に覆われていた。男達が通常のパンチでは考えられない程の勢いで吹き飛んでいるのは、その手甲によるパワーアップによるものだろう。

「う、動くな!」

 そこへ突如ヤージマスの震えた恫喝が聞こえてくる。タカトとライヤが目を向けると、ヤージマスがエルフィネアを片腕で捕え、拳銃をエルフィネアのこめかみに向けていた。

「それ以上何かしてみろ、こいつの命は無いぞ!」

 ヤージマスは自分の所業をばらされたくないため、必死だった。せめてタカト達を始末しなければ、何もかも失ってしまうと焦っているのだろう。しかしそんなヤージマスの心情を知ってか知らずか、タカトとライヤは無視して男達を倒し続けている。

「お、おい、聞いているのか!? こいつの命がボルァッ!?」

 再度忠告しようとしたその時、ヤージマスが奇妙な悲鳴を上げて後方によろめく。

「ハアァッ!」

「ヒドゥンッ!?」

 直後にエルフィネアが雄叫びと共に両手の掌底でヤージマスの膨れた腹を突き、ヤージマスを壁に叩きつけた。

「忠告するぜ、ヤージマス。彼女はスターリット星の武術『星華拳』の使い手だ。捕まえて人質に取ろうなんて命知らずな行為、しない方がいい」

「あなた、いつもわかってて後で言ってるでしょう?」

「あのー、大丈夫?」

 エルフィネアが呆れながらスカートのポケットからハンカチを取り出し、汚い物を触ったかのように両手を丹念に拭く。

 その横では伸びているヤージマスを心配してか、スフラがヤージマスに声をかけている。

『わーっはっはっはっはっ!!』

 その時、外から大音量で高らかな笑い声が響いてきた。

「この声は!」

 タカト達が窓を開けて外へと飛び出すと、コロニードームの外側に巨大な人影――いや、巨大な人型の黒いロボットが仁王立ちしていた。

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