パイロット版「これがいつもの冒険だ!」 Part.2

 豪邸の客間にて、メガドラグーン号の一行とヤージマスがテーブルを挟んで会合した。

「お招きいただきありがとうございます、ヤージマス氏。我々は『超銀河冒険団』、俺はリーダーのタカトです」

 青年の名乗った団体名に、ヤージマスは一瞬顔をひきつらせた。あまりにもセンスが無い名前なのに、このタカトという男は恥ずかしげもなく堂々と名乗っている。果たして馬鹿なのか、それとも駆け引きの一種なのか。ともかくヤージマスは出鼻をくじかれてしまった。

「よ、ようこそいらっしゃった。ワシがこのオルトδの統治者、ジフク・ゴ・ヤージマスだ」

「ご丁寧にありがとうございます。さて早速ですが、単刀直入に申し上げます。ヤージマス氏の持つコレクションの一つに『光の鱗』があるはずですが、それを譲っていただきたい」

 『光の鱗』という言葉に、ヤージマスは心当たりがあった。

 自身が所有する財宝のコレクションの中に、手のひらほどの大きさの鱗がある。それは常に虹色に光り輝いており、あらゆる宝石よりも美しい。希少性も高いらしく、どこの誰とも知らない輩が所有してるという噂は聞くが、これまでに同じものは見た事がない。

 ヤージマスが所有するものは、オルトδを植民地にするより前にオークションにかけられていた所を、非合法な手で安価に競り落としたものだ。

「光の鱗はワシも二つと見た事がないほど希少なコレクション。手放すにしても無償は無理な話だ――」

「失礼、私はエルフィネア・シス・スターリット。お金なら私がいくらでも出しますわ」

 タカトとヤージマスの交渉に、少女が口を挟んできた。だがヤージマスはその行為よりも、少女の名前を聞いて驚きを隠せなかった。

「スターリット――まさか、あの惑星スターリットの王女!?」

 惑星スターリット。その星は星間連合に加盟している王星の一つで、全てにおいて恵まれた星と言われている。

「ええ、このペンダントに刻まれた紋章がその証ですわ」

 エルフィネアが見せてきたペンダントには、確かにスターリット王家の紋章が刻まれていた。この類のアクセサリは偽造が困難な技術を用いて作られており、まず本物と見ていいだろう。

 そのスターリットの王女が何故得体のしれない者達と行動を共にしているのか、それはわからない。だがこれは荒稼ぎする絶好の機会だとヤージマスは直感した。

 光の鱗に高額を吹っ掛けて金をもぎ取り、エルフィネアを除いて彼らを始末してメガドラグーン号を入手、更にエルフィネアを手中に収めればスターリットすら手に届くかもしれない。

「本当にいくらでも出すのだな」

「スターリットの名に誓って」

「そうだな……ワシが手に入れた時は、一憶ギクの価値が付いていた」

 嘘である。ヤージマスが競り落とした時の額は一千万ギクであった。だがそれを知る者は、この場においては自分しかいない。光の鱗が希少だからこそつける嘘だ。

 だがヤージマスが口にした額に対し、エルフィネアが提示した額は想像だにしないものだった。

「ならば、その十倍の十憶ギクでいかがかしら」

「じっ、十億!?」

 思わず椅子から立ち上がってしまった。十憶ギクと言えば、オルトδ統治局員が一生働いても稼げない程の額だ。ヤージマスとしては二、三億程で考えていたのだが、スターリットはそれだけ裕福な星であるのだろう。

「十億ではご不満? でしたら――」

「いや、いやいや、十億で十分! 十億ギクで手を打ちましょう!」

 これ以上の金が手に入るのならばそうしたい所だが、ここは敢えて提示された十億ギクで決定する。その様な謙虚な姿勢を見せる事で、相手からの信頼を得てつけ込む事が出来るのだから。

「わかりました。ではこちらを受け取ってくれますか」

 そう言いながらエルフィネアが懐から紙束を取り出し、何かを書いたかと思うと上から一枚目を取ってヤージマスに差し出した。

 ヤージマスがそれを手に取り確認すると、そこには『十億ギク』の文字とスターリット王家の紋章、そしてエルフィネアのものと思わしきサインが書かれていた。

「これは、小切手? 今時に紙の小切手とは珍しい」

「ナノチップが施された、我が王家の証明も兼ねた小切手ですわ。信頼すべき相手にはこうして紙で渡していますの」

 つまりこれを受け取る事が出来たという事は、スターリットの信頼を得られたも同然という事だ。

「ありがとう、エルフィネア王女。おい、光の鱗を持ってくるんだ」

 上機嫌なヤージマスの指示を受け、待機していた衛兵の一人が部屋から出て行った。

 しばらくして、その衛兵が両手で抱える程の大きさの宝箱を持って戻ってきた。ヤージマスはその宝箱を受け取ると、蓋を開けてタカト達に対して中身を見せた。

「確かに、光の鱗……!」

 虹色に輝く、手のひらサイズの鱗。偽物ではない、本物の光の鱗だ。タカト達が本物を知っているか知らないかはわからないが、ヤージマスは敢えて本物を見せる事でより信頼を強固にするつもりだった。

「さあ、受け取るといい」

「ありがとうございます」

 光の鱗を宝箱ごとタカトに渡す。

「ところで、君達は急ぎではないかな。せっかくだから一泊していくといい」

「よろしいのですか」

「なに、問題はない。むしろ友好の証として振舞わせてくれたまえ」

「ありがとうございます」

 これはヤージマスの企みの一環である。

 十億ギクは既に手にしたも同然だが、それでもって光の鱗を手放す事をするつもりはない。一時的にタカト達に渡しはしたが、すぐに取り戻すつもりだ。そのためにはタカト達をここに留まらせる必要があった。

 その企みがうまく進んでいると確信し、ヤージマスは内心でほくそ笑んだ。

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