インターステラジャーニー!-超銀河冒険記-
紅羽根
パイロット版「これがいつもの冒険だ!」
パイロット版「これがいつもの冒険だ!」 Part.1
その星は、大海の深い青と大陸の黄土色に覆われていた。宇宙からでは視認できないが、大陸のどこかにコロニードームが築かれているだろう。
星の名前は、星間連合には惑星『オルトδ』で登録されていた。単純にオルト星系第四番惑星だからという理由で命名されており、それは同時にオルトδには土着の知的生命体が存在しない事を意味している。
そのオルトδに近づく一隻の白い宇宙艦があった。近代の宇宙艦とは異なり、流線形のフォルムではなく幾つものブロックを組み合わせて造られた、有り体な言い回しをすれば「子供のおもちゃの様な」宇宙艦だ。
「目的地、惑星オルトδを確認!」
宇宙艦のブリッジにて、キャプテンシートに座している青年が、前面の巨大モニタに映るオルトδを目にして嬉しそうに状況を告げた。
ブリッジには彼を含めて四人いるが、いずれも操縦に関わっている様子はなく、青年と同様にモニタを見つめている。
「典型的な、テラフォーミングで切り拓いた植民地ね。欲深い豪族がする事だわ」
フリルで装飾されたワンピースを着た銀色のロングヘアの少女が、呆れたように溜息をつく。どうやら似たような星や人物の例をいくつも知っているようだ。
広大な宇宙に点在する惑星の幾分かは、生命が住んでいる。宇宙全体で見ればその数は多くないが、それでも生命の住む星の数パーセントは知的生命体が存在し、更にそれぞれの星が交流する程には文明が発達している。
文明が発達しているという事は、少なからず欲を持った者が存在する事も意味している。その中には自分の星の中だけでなく、外側にある星も手にしようとする者がいた。
オルトδもまた、その様な理由で植民地惑星となったのだろう。
「だけどそんな輩だからこそ、情報収集は容易だったろ」
キャプテンシートの青年の問いかけに、藍色で統一されたパイロットスーツを纏った青年が無言でうなずいた。どうやら一行は、彼が得た情報を元にここまで来たようだ。
「それじゃあ、ここにいる人が『鱗』を持っているんだね?」
少女の隣に立つ筋肉質で大柄な青年が確認すると、それにもパイロットスーツの青年はうなずく形で応えた。
「よし、早速コンタクトだ!」
『了解しました』
キャプテンシートの青年の指令に、四人以外の機械質な音声が答える。この宇宙艦は自然言語で対応できるAIが搭載されているようだ。
『――こちら、オルトδ統治局。貴君等の艦名および所属組織を問う』
スクリーンの一部に、オルトδの入出星を管理しているであろうパワードスーツで身を固めた男性が映し出される。
『こちらメガドラグーン号、所属はありませんが、星間連合に登録しています』
『――確認した。オルトδへの入星か? ならば理由を応えるように』
「オルトδの統治者であるジフク・ゴ・ヤージマス氏の所有するコレクションを一つ、譲ってもらう交渉に来た」
『コレクションを譲ってもらう……? 少し待て』
理由についてはキャプテンシートの青年が応えたが、相手の男性はやや怪訝そうな表情を見せると通信を中断させた。物好きと思われたのか不審者と思われたのか、いずれにしても上司や雇用主の判断を仰ぎに行ったのだろう。
「ま、素直にはいどうぞと渡してくれるわけないな」
「でもきっと『鱗』は見せてくれるわ。星一つ植民地にしてるくらいだもの、自慢したがりよ」
強欲で自己顕示欲が強いからこそ、わかりやすく己の権力を示したがる。その方法の一つが、星を丸ごと植民地にする事だ。と少女は呆れ気味に語った。
「それならどうするのかな」
「なに、手段はいくらでもあるさ」
筋肉質の青年の疑問に、キャプテンシートの青年は不敵な笑みで応えた。
惑星オルトδを統治するヤージマスの豪邸は、辺りを包み込む透明な半球――コロニードームの中心にある。
コロニードームの外側こそ黄土色の大地が延々と広がるだけだが、内側は植物の緑に覆われている。テラフォーミングで星全体が生命の生息に適した環境になっているが、それでも人間にとって住み心地が良い環境とは言えない。
だからこそより狭い範囲を閉鎖空間にするコロニードームが必要であり、その内部は更なる環境整備が行われている。
「ワシのコレクションを譲ってほしい奴だと」
豪邸の最奥に位置する部屋で、ヤージマスはイスに座って踏ん反り返っていた。恰幅の良い体型で、きらびやかというよりは派手な装飾が施されたビジネススーツがぴっちりしている。
『はい。星間連合の艦船登録は確認済みなので怪しい者ではなさそうですが、いかがいたしましょう』
「ふーむ……」
ヤージマスは局員の問いかけに応えず、先がカールした口髭をいじりながら考え出した。
オルトδという広大な土地を手に入れ、資産運用のみでも一生豪遊して暮らせるほどに稼いだヤージマスだが、その欲は満ち足りていない。他人が持つ宝は違法な手段を使ってでも手に入れ、金を貸せば法外な利子を吹っ掛けて荒稼ぎした。
そうして手に入れたあらゆる物品はコレクションとして貯蔵しているが、何一つ手放した事は無い。売る事はもちろん、譲るなんて発想自体あり得なかった。
「……よし、入星を許可する。そしてここに連れて来い」
『かしこまりました』
だがヤージマスは彼らを招き入れる事にした。当然ながらその意図はコレクションを譲るためではない。
ヤージマスの狙いは、彼らの艦船である。彼らを騙し込んで、あるいは有無を言わさずに奪取し、それを売り払って金に変えようという魂胆だった。
(レンタル船やタクシー船を使わずに来たという事は、自前の艦船だ。話によれば骨董品を改修したものらしいが、まあ売れば二束三文にはなるだろう)
机の引き出しからくしを取り出し、机の上にある鏡を見て七三分けの髪型を整えながらほくそ笑む。
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