第6話 女子高校「秋風祭」終演

 二幕に入ってしまえば、大きなナンバーは少ない。演技中心に舞台は進み、もう最後のクライマックスになる。



 冷え切った嘘を言い放つアニタめぐみ、半狂乱で叫び回るトニー美菜子、そして幕間から飛び出し、銃を打つチノあかり。銃声の効果音と同時に、マリア優里が走り寄るヒールの音がホールに木霊こだました。そして最後に短く交わされる『Somewhere』の旋律が切れて、美菜子の手が床に落ち、マリア優里チノあかりに詰め寄った。マリアがチノから拳銃を奪い、最後の一発を自分にと言ってその場の男達を叫び責める場面だ。


 ——カラーン………


「えっ」


 涼子を始め、舞台裏に控えた全員がモニターを見て絶句した。


 拳銃を奪おうとした優里の手とあかりの手がぶつかって、銃が客席遠くへ飛んだのだ。


 その場にいる全員が固まった。舞台上のキャストもうなだれた姿勢のまま、凍りつき、微動だにすることも出来ない。部員全員のショックが舞台上から舞台裏までを支配する。




「……あんなものが……あるからいけないのよ……」


 絞り出すように、でも客席に十分に通る声で沈黙を破ったのは、優里だった。


「あんなものがあるから、トニーが死んだんだわ……! あんなもの、なくなってしまえばいい……! いま、私があれを掴んだら、あんた達だって殺せる……あんた達を殺して、あたしも死ぬのよ……!」


 優里の演技が、固まった舞台を、いや空間全てを、一瞬で元の世界へ引き戻した。美菜子の上に泣き崩れ、男役達がその周りに集まる。


 客席から巻き起こった大喝采がホール中を満たして大音響の渦となった。客席照明が薄くつき、スタンディング・オベーションして拍手する姿が一階席にも二階席にも見える。


「さぁみんな、カーテン・コール、行っておいで!」

 涼子は舞台袖のキャストの背中を叩いて順に送り出した。


 ところが、その涼子の制服の腕が強い力で捕まれ、体が幕の外へ引きずり出された。


「フィナーレのダンス、見て覚えてるんでしょ。涼子も踊るよ」


 顔を上げたら、眩しいくらいの優里の笑顔がそこにあった。図星だ。全部覚えてる。


 一年ぶりの舞台の上。懐かしいスポット・ライト。神経の端まで意識を走らせ、最後のダンスに身体を解放する。


 大喝采と歓声に全身が包まれた。


(続く)

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