第129話

 ミオは、はっとして北斗星号から飛び降りた。王宮に戻りかけるアシュラフたちに、なんとか追いつく。




「何だ、忘れ物か?締まらない別れだな、ミオ」




「アシュラフ様。命を助けていただいたのに、俺、お礼も言っていませんでした」




 ミオの言葉に、アシュラフが首を傾げる。




「命?お前を介抱したのはサミイだぞ」




「四年前、助けていただきました。アシュラフ様が『白』の待遇を改善して下さったから」




「待遇って、そんなの、まだまだなんだよ。買いかぶられては困る」




「そのとき、俺は前の店主に捨てられたばかりで、今の店主は『白』の政策を知って、拾ってくれたんです。アシュラフ様が『白』の待遇改善に乗り出してくれなければ、俺は死んでいました。ジョシュア様と会えたのも、辿っていけばアシュラフ様のお蔭です。それなのに俺は……」




 アシュラフが、破顔した。




「恐れられたり恨まれたりするのも、王の給金に入っている」




 そして、冗談めかしてミオの尻を叩こうとする。




「さあ、行け。ジョシュアが待っている」




 ミオは涙を拭ってジョシュアの元に戻り、北斗星号に跨る。振り返ると、三人はいつまでも手を振っていてくれた。やがて、それも見えなくなる。




「色々なことがあったね」




「はい。いつの間にか、大切な人が増えていました」




 ジョシュアが、十字星号を止めた。ミオもそれに倣う。




 ハシバミ色の目がじっとミオを見る。ミオも見つめ返すと、ジョシュアが少し身体を傾けた。ミオも同じく傾ける。




 空が青白くなっていく中で、二人は唇を合わせた。




 お互いラクダの背に乗っているので不安定な口づけだったが、ミオにはこの上ない幸せだった。

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