第128話

 夕方になり、二人は北斗星号と十字星号に乗って王都を出た。アシュラフたちが、夜中に一度行ったオアシスまで見送りに来てくれた。




「サミイ様。良かったですね。本当に」




「全て、ミオ様のお蔭です」




 ミオとサミイは、硬く抱擁を交わす。




「お前、あんまり無理するんじゃないぞ」と、サミイから奪い取るようにアシュラフが抱きしめてきて、ミオは身体を強張らせた。




「何だよ、急に」




「アシュラフ。ミオさんは、地下牢のことを知っている」




 隣りでジョシュアが言うと、




「ああ。そうか。それで、俺のことが怖くなったんだな。ま、しょうがねえか」




とあっさりとした口調で、アシュラフがミオを離した。だが、顔には歪んだ笑顔を浮かべていて、ミオは自分の態度が彼を傷つけてしまったのだとすぐ察知した。




「行こう」




 俯くミオを、ジョシュアが促す。北斗星号に跨ると、サミイとマデリーンが小さく手を振った。アシュラフはそっぽうを向いている。




 二頭のラクダが砂漠を歩き出す。




 この国が火の海に沈まないよう、大切な人を手放そうとしてまで守ろうとした男に、礼どころか別れの挨拶もちゃんとできなくて、ミオは自分が情けなくなった。




 アシュラフもまた、ジョシュアと同じ苦しい人生を歩んできたはずだ。




 いくら叔父が手助けしてくれたと言っても、英国の後ろ盾を強化しつつ、上手に欧羅巴に国を解放するなんて、綱渡のような毎日だったろう。




 その上『白』の待遇まで改善してくれた。

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