第127話

 見たくないのに、勝手に足が進んだ。袖の切れたボロボロのサイティを着た長い髪の男が、手枷と足枷をされて牢の隅にうずくまっていて、目が合うと野犬のような唸り声を上げる。




「アシュラフは、叔父と組んで父を王座から追いやったんだ。そのお蔭で、阿刺伯国は戦火を逃れ豊かになった。王が長期で不在だというのに、誰も表だって騒がないのは、この男が誰一人大切にしてこなかったという証明だろうね」




「そんな冷たいことを、おっしゃらないで下さい。ジョシュア様が王宮中を探し回っているとアシュラフ様は言っていましたよ。お父様が心配だったからではないですか?」




「ないよ。そんなことは絶対にない。サミイを性の道具にし、僕の母を無理やり抱き、アシュラフの母だって酷い扱いを受けて死んでいった。こんな男のこと……」




「でも、とても困った顔をされています」




 ミオは、暫くジョシュアのサイティの袖を掴んでいたが、勇気を出してジョシュアの背中に回した。




「王族の方は、俺みたいに灼熱の太陽の下で肉体労働をしなくてよくて、なんと幸せな人たちなんだろうと思っていました。でも、どんな人間だって苦しいのですね」




 狂王と呼ばれる阿刺伯国の王と、冷徹の魔女を呼ばれる英国女王との間に一夜の過ちで生まれてしまったジョシュアは、どれほどの苦しみを抱えて生きてきたことだろう。想像しただけで胸が苦しくなる。




「ミオさん。こんなときこそ、逃げてはいけないね」




 そろそろと、ジョシュアが抱きしめ返してきた。




「この人を病院に送れとアシュラフに兄の力を持って進言する」




 ミオはジョシュアの胸の中で頷く。




「でも、片時も見張りをつけ一生病院から出さない。それが、僕に出来る精いっぱいだ」

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